精密な研磨や刃物の最終仕上げに使われるルビー砥石ですが、その正しい使い方をご存じでしょうか。ルビー砥石の性能を最大限に引き出すためには、オイルの選び方から研磨のコツまで、いくつかのポイントを押さえる必要があります。
この記事では、基本的なルビー砥石の使い方はもちろん、アルカンサス砥石やCBN砥石と一般砥石の違いは何ですか?といった比較、砥石のGCとWAの違いは何ですか?という材質に関する疑問にもお答えします。さらに、ホワイトストーン砥石の使い方は?という関連情報や、ルビー砥石が歯科でどのように使われているのか、おすすめのスティック砥石のメーカーはどこですか?といった具体的な製品選びまで、あらゆる角度から専門的に解説していきます。
この記事で分かること
- ルビー砥石の基本的な性質と特徴
- オイルを使った正しい研磨の手順とコツ
- 他の砥石との違いと比較ポイント
- 用途に合わせたルビー砥石の選び方
本記事の内容
ルビー砥石の使い方を学ぶ前の基礎知識
- ルビー砥石とは?その成分と硬さ
- 砥石のGCとWAの違いは何ですか?
- CBN砥石と一般砥石の違いは何ですか?
- アルカンサス砥石との比較
- ホワイトストーン砥石の使い方は?
- ルビー砥石の歯科での利用
ルビー砥石とは?その成分と硬さ
ルビー砥石とは、その名の通り美しい赤色が特徴的な砥石ですが、宝飾品のルビーを粉砕して作られているわけではありません。
その正体は、高純度の酸化アルミニウム(Al2O3)、一般的にはアルミナと呼ばれるセラミックスを焼き固めて作られた焼結砥石です。これはコランダムという鉱物の一種であり、宝飾品のルビーやサファイアも同じコランダムからできています。つまり、成分的にはルビーと同じであるため、ルビー砥石と呼ばれているのです。
この砥石は、砥粒を結合剤(ボンド)で固める一般的な砥石とは異なり、砥粒自体を高温で焼き固めて作られることが多く、非常に硬く緻密な構造を持っています。このため、砥石自体の摩耗が少なく、高い平面維持性能を誇ります。

ルビー砥石の主な特徴
高い硬度:
ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つアルミナを主成分とするため、超硬金属やセラミックスといった硬い素材の研磨にも対応可能です。
緻密な構造:
砥粒が非常に細かく均一なため、精密な仕上げ研磨に適しており、バリ取りや面取り、刃物の最終仕上げで高い品質を発揮します。
耐摩耗性:
砥石自体の減りが少ないため、形状が崩れにくく、長期間にわたって安定した研磨性能を維持します。
一方で、非常に硬いがゆえに目詰まりを起こしやすいという側面もあり、性能を維持するためには後述するオイルを適切に使用することが不可欠です。
砥石のGCとWAの違いは何ですか?
砥石を選ぶ際によく目にする「GC」や「WA」という記号は、砥粒(研磨剤)の種類を示しています。ルビー砥石の性質を理解する上で、これらの違いを知ることは非常に重要です。
GC砥石とWA砥石の主な違いは、その硬度と靭性(じんせい:粘り強さ、欠けにくさ)にあります。
種類 | 名称 | 主成分 | 硬度 | 靭性 | 主な用途 |
---|---|---|---|---|---|
GC | 緑色炭化けい素 (グリーンカーボ ランダム) | 炭化ケイ素 (SiC) | 非常に高い | 低い (脆い) | 超硬合金、セラミックス、 石材など非常に硬いが 脆い材料の研磨 |
WA | 白色アルミナ (ホワイト アランダム) | 酸化アルミニウム (Al2O3) | 高い | 高い (粘り強い) | 焼入れ鋼、合金鋼、 工具鋼など硬くて 粘りのある鋼材の研磨 |
簡単に言えば、GCは「より硬いが、衝撃に弱く欠けやすい」砥粒で、WAは「GCよりは硬度で劣るものの、粘り強く欠けにくい」砥粒です。

前述の通り、ルビー砥石の主成分は高純度の酸化アルミニウムであり、性質としてはWA砥石に近いと言えます。このため、ルビー砥石は鋼材の研磨、特に高品質な仕上げが求められる場面で優れた性能を発揮するのです。
CBN砥石と一般砥石の違いは何ですか?
砥石の世界には、WAやGCといった一般砥粒の他に、「超砥粒」と呼ばれる非常に高性能な砥粒が存在します。その代表格がCBN(Cubic Boron Nitride:立方晶窒化ホウ素)です。
CBN砥石と一般砥石の最も大きな違いは、砥粒の圧倒的な硬度と耐久性にあります。
CBNは、ダイヤモンドに次ぐ硬さを持つ人工物で、特に鉄鋼材料との化学反応性が低いため、ダイヤモンド砥石が苦手とする鋼の研磨において絶大な威力を発揮します。

CBN砥石のメリット・デメリット
メリット:
- 研削力が非常に高く、作業効率が格段に向上する
- 砥石の摩耗が極めて少なく、長寿命である
- 発熱が少なく、ワーク(加工物)の焼き付きを防ぐ
デメリット:
- 一般砥石に比べて価格が非常に高価である
- 砥石の成形や目立て(ドレッシング)に専用の道具が必要になる
ルビー砥石を含む一般砥石が「研ぎ減らしながら新しい砥粒を出す」ことで研削力を維持するのに対し、CBN砥石は「砥粒自体がほとんど摩耗しない」という点で根本的に異なります。プロの現場や大量生産ラインでは重宝されますが、手作業での精密仕上げや個人の趣味の範囲では、コストパフォーマンスや使いやすさの面からルビー砥石のような一般砥石が選ばれることが多くあります。
アルカンサス砥石との比較
オイルストーン(油砥石)の中で、ルビー砥石としばしば比較されるのがアルカンサス砥石です。
アルカンサス砥石は、アメリカのアーカンソー州で産出される天然の堆積岩(ノバキュライト)から作られる非常に緻密で硬い砥石です。古くから時計部品の仕上げやブロックゲージのメンテナンスなど、超精密な仕上げ作業に用いられてきました。

両者の主な違いは、その成り立ちと特性にあります。
項目 | ルビー砥石 | アルカンサス砥石 |
---|---|---|
原料 | 人工の酸化アルミニウム(焼結体) | 天然の堆積岩(ノバキュライト) |
構造 | 均質で緻密 | 天然物由来のため、品質に個体差がある |
硬度 | 非常に硬い | 硬いが、ルビー砥石よりはやや柔らかい傾向 |
研削力 | 比較的高め | 非常に穏やかで、滑らかな鏡面仕上げ向き |
用途 | 精密仕上げ、バリ取り、面取り | 最終鏡面仕上げ、刃の微調整、ゲージ類のメンテナンス |
どちらも高品質なオイルストーンですが、より積極的な研磨や形状修正も視野に入れるならルビー砥石、傷をつけずに究極の鏡面仕上げを目指すならアルカンサス砥石、という使い分けが考えられます。ルビー砥石は、いわばアルカンサス砥石の現代的な代替品として、より安定した品質と高い研削力を提供する砥石と言えるでしょう。
ホワイトストーン砥石の使い方は?
「ホワイトストーン」という名称は、特定の砥石を指すというよりは、白色アルミナ(WA)系の仕上げ砥石の通称として使われることが多いです。
多くのホワイトストーンは、非常に細かい粒度のWA砥粒をビトリファイド法(セラミックボンド)で固めて作られており、滑らかで精密な仕上げ面を得意とします。その使い方は、砥石の種類によって水を使うか油を使うかが異なります。
一般的にセラミック系のホワイトストーンは水砥石として使用されることが多いですが、製品によってはオイルストーンとして指定されている場合もあります。必ずメーカーの推奨する使用方法を確認してください。

水砥石として使用する場合の基本的な使い方は以下の通りです。
- 吸水させる:
使用前に砥石を水に浸し、十分に水分を含ませます。(気泡が出なくなるのが目安) - 研ぐ:
研ぎたいものを砥石に当て、角度を一定に保ちながら研ぎます。
研ぎの最中も、砥石の表面が乾かないように時々水をかけるのがコツです。 - 清掃する:
研ぎ終わったら、砥石の表面についた研ぎ汁や汚れを洗い流し、日陰で十分に乾燥させてから保管します。
ルビー砥石が油で目詰まりを防ぎながら研ぐのに対し、多くのホワイトストーンは水と研ぎ汁(砥粒と削れた金属が混ざったもの)で研ぎ進めていく点に違いがあります。
ルビー砥石の歯科での利用
ルビー砥石の硬度と精密加工性能は、工業分野だけでなく、歯科医療の現場でも活用されています。
歯科では、ルビー砥石は主に「カーボランダムポイント」や「ルビーポイント」といった名称で、エンジン(歯を削るドリル)の先端に取り付ける小さな砥石として使用されます。

主な用途は、金属やセラミックスで作られた歯の詰め物(インレー)や被せ物(クラウン)の形態修正や研磨です。具体的には、以下のような作業で活躍します。
- 形態修正:
作製された補綴物(詰め物・被せ物)の形を、患者さんの噛み合わせに合わせて微調整する。 - 表面研磨:
調整後の補綴物の表面を滑らかにし、プラーク(歯垢)の付着を防ぎ、舌触りを良くする。 - マージン調整:
補綴物と歯の境目(マージン)を精密に適合させる。
口の中という非常に狭いスペースで、硬い材料を精密に削る必要があるため、耐摩耗性に優れ、細かい作業がしやすいスティック状のルビー砥石の特性が最大限に活かされているのです。
具体的なルビー砥石の使い方と選び方
- 砥石に油を染み込ませる準備
- 研磨作業のコツと清掃方法
- スティック砥石のメーカーはどこですか?
- 正しいルビー砥石の使い方まとめ
砥石に油を染み込ませる準備
ルビー砥石は、油を潤滑剤として使用するオイルストーンです。その性能を正しく発揮させるためには、使用前の準備が非常に重要になります。
なぜ水ではなく油なのか?
ルビー砥石のような緻密で硬い砥石は、研磨時に発生する削りカス(切り粉)が砥石の気孔(目)に詰まりやすい性質があります。これを「目詰まり」と呼びます。
油を使用する目的は、この目詰まりを防ぐことです。油が潤滑剤として機能し、削りカスを砥石の表面に浮かび上がらせることで、常に新しい砥粒で効率よく研磨できるようにします。
注意点:水は絶対に使用しないでください
オイルストーンとして設計されているルビー砥石に水を使用すると、油が水を弾いてしまい、潤滑効果が全く得られません。それだけでなく、サビの原因になったり、砥石の劣化を早めたりする可能性もあるため、必ず油を使用してください。

準備の手順
- 適切な油を用意する:
ホームセンターなどで販売されている「油砥石用オイル」や「ホーニングオイル」といった専用品が最適です。粘度の低いサラサラとした鉱物油が推奨されます。 - 油を染み込ませる:
初めて使用する際は、砥石全体に油をたっぷりと塗り、十分に染み込むまでしばらく時間を置きます。
砥石が油を吸わなくなるまで、数回繰り返すとより効果的です。 - 研磨面に油を塗る:
実際に研磨作業を始める直前に、砥石の研磨面と、研磨したい対象物の両方に油を数滴垂らすか、スプレーします。
この準備を怠ると、すぐに目詰まりを起こしてしまい、砥石本来の研削力が得られなくなるため、丁寧に行いましょう。
研磨作業のコツと清掃方法
準備が整ったら、いよいよ研磨作業に入ります。高品質な仕上げを実現するためには、いくつかのコツがあります。
研磨作業のコツ
1. 角度を一定に保つ
刃物を研ぐ場合でも、平面を出す場合でも、最も重要なのが「角度の維持」です。特に刃物の仕上げでは、研磨する角度がブレてしまうと、鋭い刃先を作ることができません。砥石の上で対象物を動かす際、手首や肘を固定する意識を持つと安定します。
2. 力を入れすぎない
ルビー砥石は非常に硬いため、強い力で押し付ける必要はありません。むしろ、力を入れすぎると対象物を削りすぎたり、エッジが丸まったりする原因になります。砥石の自重と対象物の重さを活かすようなイメージで、軽く滑らせるように動かしてください。
3. 砥石全体を均等に使う
砥石の一部分だけを使い続けると、その部分だけが凹んでしまい(「面が狂う」と言います)、正確な平面研磨ができなくなります。ストロークを大きく取り、砥石の端から端まで全体を均等に使うことを心がけましょう。
研磨中は、油が黒く汚れてきます。これが、削りカスが油に浮いている証拠です。汚れがひどくなったら、一度ウエス(布)で拭き取り、新しい油を追加すると、常に最高の研磨状態を保てます。

使用後の清掃と保管
作業が終わったら、砥石のメンテナンスも忘れずに行いましょう。
- 表面の清掃:
砥石の表面に残った黒い油汚れを、きれいなウエスやブラシを使って丁寧に拭き取ります。
汚れがひどい場合は、新しい油をかけて汚れを浮かせてから拭き取ると効果的です。 - 保管:
清掃が終わったら、ホコリがつかないようにケースに入れるか、布で包んで保管します。
油が染み込んでいるため、新聞紙などの上に置いておくと油が染み出すことがあるので注意してください。
適切なメンテナンスを行うことで、ルビー砥石は長期間にわたってその性能を維持することができます。
スティック砥石のメーカーはどこですか?
ルビー砥石は、板状のものだけでなく、金型の仕上げや狭い部分のバリ取りなどに使われるスティック形状の製品も多く流通しています。
スティック砥石は、ペンホルダーのような治具に挟んで、鉛筆のように持って使用することが多いです。精密な手作業に欠かせない工具であり、多くの砥石メーカーや工具メーカーが製造・販売しています。

国内外で評価の高いメーカーとしては、以下のような企業が挙げられます。
代表的なスティック砥石メーカー
- 株式会社ナニワ研磨工業:
日本の砥石メーカー大手。
「スーパー砥石」などで有名ですが、工業用の精密砥石も幅広く手がけています。 - 株式会社キング砥石:
家庭用からプロ用まで、コストパフォーマンスに優れた製品を多くラインナップしている日本の老舗メーカーです。 - BELLSTONE(ベルストン):
金型研磨用のスティック砥石で非常に有名なブランドです。
様々な形状や粒度の製品があり、プロの職人から絶大な信頼を得ています。 - XEBEC(ジーベック):
セラミックファイバー製のスティック砥石「セラミックストーン」で知られるメーカー。
折れにくく、微細なバリ取りや研磨に強みがあります。
※上記は一例です。他にも多くのメーカーが存在します。
メーカーによって砥石の硬さや切れ味、粒度のラインナップに特色があります。例えば、金型の精密な磨きにはBELLSTONEやXEBECが、汎用的なバリ取りや面取りにはナニワやキングが選ばれるなど、用途によって最適なメーカーは異なります。
どのメーカーを選べば良いか迷った場合は、自分がどのような作業で使いたいのか(対象物の材質、求める仕上げのレベル、作業箇所の形状など)を明確にして、工具専門店の店員さんに相談してみるのが良いでしょう。
正しいルビー砥石の使い方まとめ
この記事で解説した、ルビー砥石の正しい使い方と関連知識の要点を以下にまとめます。
- ルビー砥石の主成分は宝飾品ではなく高純度の酸化アルミニウム
- 砥粒を焼き固めた焼結砥石で非常に硬く緻密な構造を持つ
- 耐摩耗性に優れ形状が崩れにくく精密な仕上げ研磨に適している
- 性質は白色アルミナ(WA)砥石に近く鋼材の研磨を得意とする
- アルカンサス砥石は天然石でルビー砥石より穏やかな研磨力を持つ
- 歯科医療では詰め物や被せ物の精密な形態修正や研磨に使用される
- 使用する際は必ず油砥石用のオイルを使用し水は絶対に使わない
- 初めて使う前には砥石全体にオイルを十分に染み込ませる
- 研磨作業の直前にも砥石の表面と対象物にオイルを塗布する
- オイルは目詰まりの原因となる削りカスを浮かび上がらせる役割を持つ
- 研磨する際は角度を一定に保ち力を入れすぎないことが重要
- 砥石の面が狂わないように砥石全体を均等に使うことを意識する
- 使用後は表面の汚れた油をウエスで拭き取り清掃する
- スティック砥石は金型研磨などで使われ専門メーカーが存在する
- 用途や目的に合わせて適切なメーカーや形状の砥石を選ぶ