ジャッキのメンテナンスをしようとしたとき、オイルの容器に書かれた「VG10」や「VG32」といった表記を見て、どちらを選べば良いか迷った経験はありませんか。

油圧ジャッキのオイル粘度は、ジャッキの性能を左右する大切な要素です。

そのため、フロアジャッキオイルの選択で失敗や後悔はしたくないものです。

そもそも、作動油のVG32とは何ですか?という基本的な疑問や、ISO粘度グレードとVG粘度グレードの違いは何ですか?といった規格に関する知識がないと、適切なオイル選びは難しいかもしれません。

また、油圧オイルのVG32とVG46の違い、ジャッキオイルとタービンオイルの違いについても気になるところです。

さらに、ジャッキオイルの代用や交換は可能なのか、例えばコンプレッサーオイルは使えるのか、といった実用的な情報も知っておきたいポイントです。

この記事では、ジャッキオイルVG10とVG32の違いを明確にし、あなたのジャッキに最適なオイルを見つけるための知識を網羅的に解説していきます。

この記事を読むことで、以下の点について理解が深まります。

ポイント
  • VG10とVG32の具体的な粘度の違いとそれぞれの特性
  • フロアジャッキやボトルジャッキなど種類に応じたオイルの選び方
  • タービンオイルやエンジンオイルを代用する際の注意点
  • オイル交換の適切なタイミングと基本的な手順

ジャッキオイルVG10とVG32の違いがわかる基礎知識

内容
  • ISOとVG粘度グレードの違いは何ですか?
  • 作動油のVG32とは何を指すのか?
  • 油圧オイルのVG32とVG46の違い
  • 油圧ジャッキのオイル粘度の選び方
  • 耐摩耗性AWと粘度VGの違いとは

ISOとVG粘度グレードの違いは何ですか?

潤滑油を選ぶ際に目にする「ISO VG」という表記は、オイルの粘度、つまり「粘り強さ」を国際的な基準で示したものです。

ISOは国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略称で、VGは粘度グレード(Viscosity Grade)を意味します。

つまり、ISO VGとは、世界共通の物差しでオイルの粘度を等級分けした指標なのです。

この規格のポイントは、数字が大きくなるほどオイルの粘度が高く、ドロドロになるという点です。

例えば、VG10は水のようにサラサラした低い粘度であるのに対し、VG100は蜂蜜のように粘度が高いオイルを指します。

この粘度は、オイルの温度が40℃のときの動粘度(流れやすさ)を基準に決められています。

したがって、ISO VGという表記は、製品ごとの性能の違いではなく、純粋にオイルの物理的な粘り気を表すための世界共通のグレードであると理解しておくと良いでしょう。

作動油のVG32とは何を指すのか?

作動油に「VG32」と記載されている場合、それはISO粘度グレードが32番の作動油であることを示しています。

具体的には、温度40℃における動粘度が28.8~35.2cSt(センチストークス)の範囲にあるオイルがVG32に分類されます。

この粘度は、工業用潤滑油の中では比較的低い部類に入り、汎用性が高いのが特徴です。

そのため、油圧ジャッキだけでなく、工作機械の油圧装置、エアーツール、コンプレッサー、そして高速で回転する軸受(タービン)など、非常に幅広い用途で使用されています。

VG32の作動油は、適度な流動性を持ちながら、機器の潤滑や防錆、冷却といった基本的な性能をバランス良く満たします。

特に低温環境でも比較的固まりにくいため、季節を問わず安定した作動が求められる多くの油圧機器で標準的な粘度として採用されています。

油圧オイルのVG32とVG46の違い

油圧オイルのVG32とVG46の最も大きな違いは、その粘度の高さにあります。

前述の通り、ISO VGの数字は粘度を表すため、VG46の方がVG32よりも粘度が高く、よりドロドロとしたオイルです。

この粘度の違いは、それぞれが適した使用環境や用途の違いに直結します。

項目ISO VG32ISO VG46
粘度低い(サラサラ)中程度
特徴低温時の流動性が良く、動作が軽い高温・高負荷時の油膜保持性に優れる
主な用途汎用油圧作動油、高速回転部、エアツール機械の摺動面、中程度の負荷がかかる歯車

VG32は粘度が低いため、低温時でもスムーズに流動し、機械の応答性が良いというメリットがあります。

一方でVG46は、粘度が高い分、高温になったり、高い圧力がかかったりする状況でも部品の間にしっかりと油膜を保持し、金属同士の摩耗を防ぐ能力に長けています。

どちらを選ぶかは、使用する機械のメーカー指定に従うのが原則です。

指定と異なる粘度のオイルを使用すると、機器の作動不良や部品の早期摩耗といったトラブルの原因となる可能性があるため注意が必要です。

油圧ジャッキのオイル粘度の選び方

油圧ジャッキのオイルを選ぶ上で最も大切なのは、使用するジャッキのメーカーが指定する粘度グレードを守ることです。

なぜなら、ジャッキは内部のシリンダーやピストン、シールなどの部品が、特定の粘度のオイルで最適に作動するように設計されているからです。

一般的に、私たちがDIYでよく使用するフロアジャッキ(ガレージジャッキ)では、比較的粘度の低い「VG10」が指定されているケースが多く見られます。

一方で、だるまジャッキ(ボトルジャッキ)や建築用のジャッキでは、より高い圧力を扱うため「VG32」が推奨されることもあります。

もし指定と異なる粘度のオイルを入れてしまうと、次のような問題が起こる可能性があります。

  • 指定より高い粘度のオイル(硬いオイル)を入れた場合:

    特に気温の低い冬場に、オイルが硬くなりすぎてジャッキの動作が著しく重くなる。

    最悪の場合、ジャッキが上がらなくなることもある。
  • 指定より低い粘度のオイル(柔らかいオイル)を入れた場合:

    高温時や負荷がかかった際に油膜を正常に保てず、内部部品の摩耗を早めたり、オイル漏れの原因になったりする。

取扱説明書やジャッキ本体のラベルを必ず確認し、指定されたISO VG粘度のオイルを選んでください。

もし指定が不明な場合は、ジャッキのメーカーに問い合わせるのが最も確実な方法です。

耐摩耗性AWと粘度VGの違いとは

オイルの製品名で「AW32」といった表記を見かけることがありますが、これは「AW」と「VG」という2つの異なる情報を組み合わせたものです。

この2つの違いを理解しておくことは、適切なオイル選びに役立ちます。

まず「VG」は、これまで説明してきた通り、オイルの粘度(Viscosity Grade)を示す国際規格です。

VG32であれば、ISO粘度グレード32番のオイルであることを意味します。

一方、「AW」は耐摩耗性(Anti-Wear)の頭文字を取ったもので、オイルに摩耗を防ぐための添加剤が含まれていることを示します。

つまり、「AW32」という表記は、「ISO VG32の粘度を持ち、かつ耐摩耗性添加剤が配合された油圧作動油」という意味になるのです。

油圧ポンプやモーターなど、内部で金属部品が高速で摺動する機械では、この耐摩耗性能が部品の寿命を大きく左右します。

しかし、油圧ジャッキのように比較的低速で動作し、高い摺動負荷がかからない機器では、AW性能は必ずしも必要ではありません。

むしろ過剰な性能とも考えられます。

したがって、VGとAWは比較対象ではなく、VGは「オイルの硬さ」、AWは「追加された性能」と、それぞれ別の指標として理解することが大切です。

ジャッキオイルVG10とVG32の違いを踏まえた選び方

内容
  • 最適なフロアジャッキオイルの粘度
  • ジャッキオイルとタービンオイルの違い
  • コンプレッサーオイルは代用できる?
  • ジャッキオイルの代用と交換の要点
  • まとめ:ジャッキオイルVG10とVG32の違い

最適なフロアジャッキオイルの粘度

フロアジャッキ(ガレージジャッキ)に最適なオイル粘度は、一般的に「ISO VG10」です。

市場で販売されているAZや大橋産業(BAL)といったメーカーのフロアジャッキ専用オイルの多くが、このVG10を採用しています。

その理由は、フロアジャッキの油圧システムが、比較的サラサラとした低粘度のオイルでスムーズに作動するように設計されているためです。

粘度の高いオイル、例えばVG32などを使用すると、特に気温の低い冬場にはオイルが硬くなり、ハンドルを操作してもジャッキがスムーズに上がらなかったり、動きが非常に重くなったりする可能性があります。

ただし、これはあくまで一般的な傾向です。

一部のフロアジャッキ、特に大型のモデルや特定のメーカーの製品では、VG32が指定されている場合も考えられます。

最も確実なのは、お使いのジャッキの取扱説明書を確認することです。

もし取扱説明書を紛失してしまった場合は、ジャッキ本体に貼られているラベルや刻印を探してみてください。

そこに指定粘度が記載されていることがあります。

自己判断で異なる粘度のオイルを選ぶと、ジャッキの性能を損なうだけでなく、故障の原因にもなりかねませんので、必ずメーカーの指定に従いましょう。

ジャッキオイルとタービンオイルの違い

ジャッキオイルとタービンオイルは、基になるベースオイルが鉱物油である点は共通しており、一見すると似たようなオイルに見えます。

しかし、その用途と求められる性能に応じて、配合されている添加剤に違いがあります。

ジャッキオイルは、油圧を正確に伝達することが第一の役割です。

潤滑や防錆といった性能も求められますが、高速回転や高温といった過酷な環境に晒されることは少ないです。

一方、タービンオイルは、発電所のタービンや高速で回転する精密機械の軸受(スピンドル)などに使用されます。

そのため、優れた潤滑性能はもちろんのこと、高温に耐える酸化安定性、水分が混入しても錆を防ぐ防錆性、泡立ちを抑える消泡性など、より多岐にわたる高い性能が要求されます。

特に、VG10程度の低粘度のタービンオイルは「スピンドルオイル」とも呼ばれ、ジャッキオイルの代用品として使用されることがあります。

粘度さえ合っていれば、基本的な作動に大きな問題が出る可能性は低いと考えられますが、タービンオイルは一般的にジャッキオイルより高価です。

入手性やコストを考慮すると、特別な理由がない限りは、素直に「ジャッキ用」として販売されている製品を選ぶのが最も合理的と言えるでしょう。

コンプレッサーオイルは代用できる?

コンプレッサーオイルをジャッキオイルの代用品として使用することは、基本的には推奨されません。

最も大きな理由は、粘度が合わないケースがほとんどだからです。

一般的に、レシプロ式(ピストン式)のエアコンプレッサーに使用されるオイルは、VG32やVG68といった、ジャッキオイルに比べてかなり粘度の高いものが主流です。

前述の通り、フロアジャッキの多くはVG10という低粘度オイルを前提に設計されています。

もし、ここにVG32やVG68といった硬いオイルを注入してしまうと、油圧がスムーズに伝わらず、ジャッキが上がらない、または動作が極端に重くなるといった不具合が発生する可能性が非常に高いです。

また、コンプレッサーオイルは、圧縮によって高温になる空気や水分と常に接するため、酸化安定性や水分離性を重視した添加剤が配合されています。

これはジャッキの油圧システムで求められる性能とは方向性が異なります。

緊急時で他に選択肢がないという状況を除き、粘度の異なるコンプレッサーオイルをジャッキに使うのは避けるべきです。

ジャッキの故障や思わぬ事故につながるリスクを冒すより、適切な粘度の専用オイルを使用することが賢明です。

ジャッキオイルの代用と交換の要点

油圧ジャッキの性能を長く維持するためには、オイルの管理が欠かせません。

ここでは、オイルの代用と交換に関する重要なポイントを解説します。

代用オイルの考え方

ジャッキ専用オイルが入手できない場合、他のオイルで代用することは可能ですが、いくつかの注意点があります。

  • 最優先事項は粘度:

    代用を検討する上で最も重要なのは、メーカー指定のISO VG粘度を守ることです。

    例えばVG10が指定なら、それに近い粘度のオイルを探します。
  • 代用候補となるオイル:
    • スピンドルオイル/タービンオイル:

      VG10の製品があり、代用しやすい候補です。
    • エンジンオイル:

      粘度表記は異なりますが、例えば「SAE 5W」はVG10にかなり近い粘度を持つため、代用できる可能性があります。
    • ATF(オートマチック・トランスミッション・フルード):

      低粘度で作動油としての性質も持つため、代用に使われることがあります。
  • 避けるべきオイル:

    ミッションオイル(ギアオイル)は粘度が高すぎるため、ジャッキには絶対に使用しないでください。

代用はあくまで自己責任となります。

可能な限り専用オイルの使用をお勧めします。

オイル交換のポイント

ジャッキオイルは使用するうちに酸化したり、内部で発生した金属粉やゴミが混入したりして劣化します。

劣化したオイルは、内部シールの寿命を縮め、故障の原因となるため定期的な交換が必要です。

  • 交換のタイミング:

    一般的には3年ごとの交換が推奨されていますが、使用頻度が低い場合は、ジャッキの作動が悪くなったり、オイル漏れを発見したりしたタイミングで交換を検討するのが現実的です。
  • 交換手順の概要:
    1. リリースバルブを緩め、ジャッキを完全に下げます。
    2. オイル注入口のゴム栓などを外し、ジャッキを逆さにして古いオイルを全て排出します。廃油は黒く汚れていることが多いです。
    3. ジャッキを水平に戻し、新しいオイルを規定量(多すぎても少なすぎてもNG)まで注入します。
    4. 注入口を開けたまま、リリースバルブを緩めた状態でハンドルを数回ポンピングし、内部のエア抜きを行います。
    5. エア抜きが終わったら注入口の栓を閉め、正常に作動するか確認します。

正しいメンテナンスを行うことで、油圧ジャッキを安全に長く使い続けることができます。

まとめ:ジャッキオイルVG10とVG32の違い

この記事で解説した、ジャッキオイルVG10とVG32の違いに関する要点を以下にまとめます。

  • ISO VGはオイルの粘度(粘り強さ)を示す国際規格
  • VGの後の数字が大きいほどオイルの粘度が高くドロドロになる
  • VG10は粘度が低くサラサラしたオイル
  • VG32はVG10よりも粘度が高いオイル
  • ジャッキオイル選びではメーカーの指定粘度を守ることが最も重要
  • 一般的なフロアジャッキ(ガレージジャッキ)ではVG10が多く指定される
  • ボトルジャッキ(だるまジャッキ)などではVG32が指定されることもある
  • 指定より硬いオイル(例:VG10指定にVG32)を使うと動作が重くなる
  • AW(耐摩耗性)は粘度とは別の性能指標
  • ジャッキには高い耐摩耗性(AW性能)は必ずしも必要ない
  • 粘度が合えばタービンオイルやスピンドルオイルも代用候補になる
  • コンプレッサーオイルは粘度が合わないことが多く代用は非推奨
  • エンジンオイルもSAE粘度を理解すれば代用できる可能性がある
  • オイル交換は3年程度が目安、作動不良時も交換のサイン
  • オイル交換時は全量交換とエア抜きを確実に行う
  • ジャッキオイルVG10とVG32の根本的な違いは粘度であり、ジャッキの仕様に合わせて正しく選ぶ必要がある
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