車のメンテナンスやタイヤ交換を行う際、作業効率を考えて「ジャッキで2輪上げ」を検討したことはありませんか。

特にガレージジャッキを使えば、ジャッキアップで2輪同時前後を持ち上げることは可能ですが、正しい手順や知識なしに行うと、取り返しのつかない事態を招く可能性があります。

例えば、正しいフロアジャッキをかける場所や、特に分かりにくいフロントのジャッキアップポイントの見つけ方を間違えて、ジャッキアップポイント以外に力をかけてしまうと、大切な愛車に深刻なダメージを与えかねません。

また、安易な考えでジャッキアップを片側ずつ行ったり、緊急用のパンタジャッキで2輪上げを試みたりするのは、車体の歪みや落下事故に繋がる非常に危険な行為です。

安全な作業の実現には、正しい輪止めの位置を確認することも不可欠です。

この記事では、ジャッキアップに関するこれらの疑問や不安を一つひとつ解消し、誰でも安全に作業できるよう、正しい知識と具体的な手順を分かりやすく解説していきます。

ポイント
  • 正しいジャッキでの2輪上げの手順と危険な方法の違い
  • ジャッキアップポイントの正しい見つけ方
  • パンタジャッキとフロアジャッキの適切な使い方
  • ジャッキアップ作業の安全性を高める必須ルール

ジャッキでの2輪上げの正しい方法と危険な方法

内容
  • ジャッキアップで2輪同時前後は可能か
  • 正しいフロアジャッキのかける場所とは
  • フロントのジャッキアップポイント一覧と見つけ方
  • 危険!ジャッキアップを片側ずつ行うリスク
  • ジャッキアップポイント以外にかけるのはNG

ジャッキアップで2輪同時前後は可能か

結論から言うと、ガレージジャッキ(フロアジャッキ)を使用すれば、車の前輪2本または後輪2本を同時に持ち上げることは可能です。

なぜなら、ガレージジャッキは油圧の力を利用してパワフルに車体を持ち上げ、広い設置面積と車輪によって安定性を確保できる構造になっているからです。

実際に、多くの整備工場やDIYでメンテナンスを行うユーザーは、この方法で作業効率を高めています。

ただし、この作業が可能なのはあくまでガレージジャッキを使用した場合に限られます。

車載されているパンタグラフジャッキで2輪を同時に上げることは、構造上不可能であり、極めて危険なため絶対に行わないでください。

2輪同時にジャッキアップを行う際は、必ず車種ごとに指定されたジャッキアップポイントに正確にジャッキを当てることが、安全を確保する上で最も大切なことになります。

正しいフロアジャッキのかける場所とは

フロアジャッキを使って2輪を同時に上げる場合、ジャッキをかける場所は車種ごとに定められた「ジャッキアップポイント」に限られます。

このポイントは、車体フレームの中でも特に強度が高く設計されており、車重を支えても変形しないようになっているため、安全に車体を持ち上げることができます。

具体的には、フロント側はエンジンやトランスミッションを支える頑丈な骨格である「サスペンションメンバー」の中央部分、リア側は後輪駆動車(FR)や四輪駆動車(4WD)であれば「デファレンシャルケース(デフ)」、前輪駆動車(FF)では車軸の役割を果たす「アクスルビーム」の中央や、補強された「牽引フック」などが指定されていることが多いです。

一方で、絶対にジャッキをかけてはいけない場所も存在します。

例えば、エンジン下部のオイルを溜めておく「オイルパン」にかけると、凹んでオイル漏れやエンジン故障の原因となります。

また、アクスルビームも中央の指定ポイント以外にかけると、曲がってしまい走行に支障をきたす恐れがあるため注意が必要です。

愛車のどこが正しいポイントなのかを事前に確認することが、安全な作業への第一歩と言えます。

フロントのジャッキアップポイント一覧と見つけ方

車のジャッキアップポイント、特に左右のタイヤを同時に持ち上げるためのフロント中央のポイントを見つけるのは、意外と難しい作業です。

最も確実な方法は、メーカーが発行する「整備マニュアル(サービスマニュアル)」で確認することです。

一般的な取扱説明書には、タイヤ1輪を交換するためのサイドのジャッキアップポイントしか記載されていない場合がほとんどだからです。

整備マニュアルが手元にない場合は、いくつかの方法で探すことができます。

車体の下を覗いて探す

車体の下を覗き込み、サスペンションを支えている太い鉄の骨格(サスペンションメンバー)を探します。

その中央付近に、ジャッキのお皿がフィットするような形状の突起や凹みが設けられていることが多いです。

車種によっては、アンダーカバーに四角い切れ込みがあり、その奥にポイントが隠れている場合もあります。

ディーラーや整備工場で確認する

もしディーラーや行きつけの整備工場があれば、そこで教えてもらうのが最も手軽で確実な方法です。

プロの整備士であれば、車種ごとの正しいポイントを熟知しています。

見つからないからといって、エンジンやトランスミッション本体、ラジエーターを支えるコアサポートなど、それらしい頑丈そうな部分に安易にジャッキをかけるのは絶対にやめてください。

これらは車の心臓部であり、直接力を加えると重大な故障や修復歴が付くほどのダメージに繋がる可能性があります。

危険!ジャッキアップを片側ずつ行うリスク

結論として、車の左右どちらか一方の2輪(例:左前輪と左後輪)を同時に持ち上げることは、非常に危険であり、原則として絶対に行うべきではありません。

最近の乗用車の多くは「モノコックボディ」という、ボディ全体で強度を保つ構造を採用しています。

この構造は、衝突時のような前後方向からの力には強いものの、車体側面の中央部分といった、想定外の箇所に1点で大きな力がかかることには非常に弱いという特性を持っています。

もし、前後ドアの中間あたりにあるサイドシルなどにジャッキをかけて無理に持ち上げると、車体の中心部が重量に耐えきれず、「くの字」に曲がってしまう可能性があります。

最悪の場合、ボディが歪んでドアの開閉ができなくなったり、シャシーに修復不可能なダメージが及んだりすることも考えられます。

さらに、前後の重量バランスが極端に悪くなるため、ジャッキが非常に不安定な状態になります。

少しの揺れや傾きでジャッキが外れ、車体が落下する大事故に繋がる危険性が極めて高いです。

一部の大型トラックなどで採用されている頑丈な「ラダーフレーム」構造の車では可能な場合もありますが、一般的な乗用車では車体を破壊する行為だと認識し、絶対に避けてください。

ジャッキアップポイント以外にかけるのはNG

前述の通り、ジャッキアップは必ずメーカーが指定した「ジャッキアップポイント」で行わなければなりません。

指定ポイント以外は、車の重量を支えるための強度が全く確保されていないからです。

例えば、ボディ下部のフロアパネルは、見た目以上に薄い鉄板でできています。

ここにジャッキをかけてしまうと、重さに耐えきれずに簡単に凹んでしまったり、最悪の場合は穴が開いたりすることもあります。

また、ドアの下にあるサイドシルも同様で、指定された前後のポイントから少しでもズレると、簡単に変形してしまいます。

見た目が損なわれるだけでなく、サビの原因になったり、車の価値を大きく下げてしまったりするでしょう。

さらに危険なのは、マフラーやガソリンタンクといった部品に誤ってジャッキをかけてしまうことです。

部品が破損するだけでなく、燃料漏れや排気漏れを引き起こし、火災などの命に関わる重大な事故に繋がる恐れもあります。

ジャッキアップポイントは、車を安全に持ち上げるために唯一許された場所です。

作業前には必ず位置を確認し、ジャッキがズレないように慎重に作業を進めることが不可欠です。

安全なジャッキ 2輪上げに必須のルール

内容
  • パンタジャッキでの2輪上げは絶対に禁止
  • ジャッキアップ時の正しい輪止の位置
  • リジッドラック(ウマ)の併用は必須
  • 安定した作業場所を選ぶことが重要
  • 車体の下に潜る際の最大の注意点
  • ジャッキの種類と正しい選び方
  • 安全なジャッキでの2輪上げ作業の総括

パンタジャッキでの2輪上げは絶対に禁止

パンタグラフジャッキ(車載ジャッキ)は、あくまで緊急時にタイヤ1輪を交換するために設計された工具です。

このジャッキを使って2輪を同時に持ち上げることは、構造上不可能であり、絶対に試みてはいけません。

パンタジャッキは、菱形(ひしがた)の構造とネジの力で車体を持ち上げますが、接地面積が非常に狭く、横方向の力に対して極めて不安定です。

2輪同時に上げようとすると、車体のバランスが崩れてジャッキが簡単に傾き、車体が落下する大事故に繋がります。

また、パンタジャッキの耐荷重は、1輪分の重量を想定して設計されています。

2輪分の重量をかけると、ジャッキ本体が破損する可能性も否定できません。

最も重要な注意点として、パンタジャッキで持ち上げただけの状態で、車体の下に体の一部でも入れる行為は、死亡事故に直結する最も危険な行為の一つです。

パンタジャッキは、あくまでも路上でのパンク修理など、やむを得ない状況でタイヤ交換を行うためだけのものと理解し、メンテナンス作業には使用しないでください。

ジャッキアップ時の正しい輪止の位置

ジャッキアップ作業において、輪止め(タイヤストッパー)の使用は、サイドブレーキと並んで不可欠な安全対策です。

ジャッキで車体を持ち上げると、接地しているタイヤが少なくなり、車体が意図せず動きやすくなるのを防ぐ役割を果たします。

輪止めを設置する正しい位置は、持ち上げるタイヤの対角線上、または地面に残っている側のタイヤです。

具体的な設置位置

  • フロント(前輪)をジャッキアップする場合:

    地面に接地している後輪(左右両方)の前と後ろに、それぞれ輪止めを設置します。
  • リア(後輪)をジャッキアップする場合:

    地面に接地している前輪(左右両方)の前と後ろに、それぞれ輪止めを設置します。

特に注意が必要なのは、後輪駆動(FR)のオートマチック車でリアを上げるケースです。

この場合、ギアを「P(パーキング)」に入れてもロックがかかるのは駆動輪ではない前輪の近くにあるトランスミッション部分であり、サイドブレーキは後輪にしか効きません。

つまり、後輪を持ち上げてしまうと、前輪には実質的なブレーキがかかっていない状態に近くなり、輪止めがなければ車が動き出す危険性が高まります。

どのような駆動方式の車であっても、「ジャッキアップする際は、必ず接地しているタイヤに輪止めをする」と覚えておきましょう。

リジッドラック(ウマ)の併用は必須

ジャッキアップして車体の下に潜る作業を行う際は、必ずリジッドラック(通称:ウマ)を併用してください。

これは、ジャッキアップ作業における最も重要な安全ルールの一つです。

油圧式のガレージジャッキは非常に便利ですが、内部のパッキンの劣化やバルブの不具合などにより、予期せず油圧が抜けてジャッキが下がってしまう可能性がゼロではありません。

もしジャッキだけで支えられた車体の下で作業していた場合、逃げる間もなく下敷きになってしまいます。

リジッドラックは、頑丈な金属製の脚で機械的に車体を支えるための補助工具です。

一度設置すれば、ジャッキのように突然下がることはなく、作業の安全性を飛躍的に高めることができます。

設置する場所は、サイドシルにあるパンタグラフジャッキ用のジャッキアップポイントなど、メーカーが指定した頑丈なフレーム部分です。

ジャッキで車体を希望の高さまで上げた後、慎重にリジッドラックを設置し、ゆっくりとジャッキを下げてリジッドラックに荷重をかけてから作業を開始します。

さらに安全性を高めるために、外したタイヤを車体の下に置いておくことも有効な対策です。

万が一の際に、最後の砦となってくれるでしょう。

安定した作業場所を選ぶことが重要

ジャッキアップ作業は、必ず硬く、水平で、平坦な地面の上で行う必要があります。

作業場所の選定は、事故を未然に防ぐための基本的な要素です。

なぜなら、傾斜地や砂利道、ぬかるんだ土の上など、不安定な場所で作業を行うと、ジャッキが傾いたり、地面にめり込んだりして非常に危険だからです。

ジャッキが倒れれば、車体は落下し、重大な人身事故や車両の損傷に繋がります。

理想的な作業場所は、コンクリートやアスファルトで舗装されたガレージや駐車場です。

特にガレージジャッキを使用する場合、この点はさらに重要になります。

ガレージジャッキは、車体を持ち上げる際に、アームの先端が円弧を描く動きに合わせて、本体の車輪がわずかに前進する構造になっています。

もし地面が砂利などでジャッキの車輪がスムーズに動けないと、ジャッキが前進する代わりに車体を手前に引っ張る力が働きます。

その結果、ジャッキのお皿がジャッキアップポイントから外れてしまい、車体が落下する事故を引き起こす原因となります。

作業を始める前に、必ず周囲の安全と地面の状態を確認する習慣をつけましょう。

車体の下に潜る際の最大の注意点

車体の下に潜って作業を行うことは、常に命の危険が伴う行為であることを忘れてはいけません。

最大の注意点は、「万全の安全対策を講じること」と「可能な限り一人で作業しないこと」です。

過去に何度も、ジャッキアップ中の事故で尊い命が失われています。

その多くは、基本的な安全対策を怠ったことによるものです。

車体の下に潜る前に、以下の項目が徹底されているか、必ず再確認してください。

  • 作業場所は硬く平坦か?
  • 輪止めは正しく設置されているか?
  • リジッドラックは指定の場所に確実に設置されているか?
  • 念のため、外したタイヤなどを車体の下に置いたか?

これらの対策は、どれか一つでも欠けてはなりません。

また、万が一車体が落下して下敷きになった場合、一人ではどうすることもできません。

可能であれば、誰かに作業していることを伝え、近くにいてもらうか、すぐに助けを呼べる状況で作業することが望ましいです。

もし作業に少しでも不安を感じたり、自信がなかったりする場合は、決して無理をしないでください。

専門の整備工場に依頼することも、安全を確保するための賢明な選択肢の一つです。

ジャッキの種類と正しい選び方

ジャッキにはいくつかの種類がありますが、一般的な乗用車用としては、主に「パンタグラフジャッキ」と「フロアジャッキ」の2種類が使われます。

これらのジャッキは特性が大きく異なるため、用途に合わせて正しく選び、使い分けることが大切です。

種類主な用途メリットデメリット2輪上げ
パンタグラフ
ジャッキ
緊急時のタイヤ交換軽量

コンパクト

安価
不安定

1輪ずつしか
上げられない

力が必要
不可
フロアジャッキ
(ガレージジャッキ)
タイヤ交換、
オイル交換などの
メンテナンス全般
安定性が高い

少ない力で上げられる

2輪同時上げが可能
重い

大きい

保管場所が必要

比較的高価
可能

パンタグラフジャッキ

多くの車に車載されている緊急用のジャッキです。

軽量でコンパクトなため車載に適していますが、安定性に欠け、1輪ずつ持ち上げるのが基本です。

メンテナンス作業での使用は推奨されません。

フロアジャッキ(ガレージジャッキ)

油圧を利用して、少ない力でスムーズに車体を持ち上げることができるジャッキです。

安定性が高く、前輪または後輪の2輪を同時に持ち上げられるため、本格的なメンテナンス作業に適しています。

ジャッキを選ぶ際は、ご自身の車の「車両重量」と「車高」を確認することが不可欠です。

ジャッキには耐荷重が定められており、車の重量に対応できるものを選ばなくてはなりません。

また、ローダウン車の場合は、ジャッキが入る最低地上高を確認し、「低床(ローダウン)タイプ」のジャッキを選ぶ必要があります。

安全なジャッキでの2輪上げ作業の総括

この記事で解説した、安全なジャッキアップ作業の要点を以下にまとめます。

  • ガレージジャッキを使えば前後の2輪同時上げは可能
  • パンタジャッキでの2輪同時上げは絶対に禁止
  • 車の左右片側2輪を同時に上げるのは非常に危険
  • ジャッキアップは必ずメーカー指定のジャッキアップポイントで行う
  • ジャッキアップポイント以外にかけると車体が損傷する
  • フロントのジャッキアップポイントは整備マニュアルで確認するのが確実
  • 見つからない場合はディーラーや整備工場に聞くのが安全
  • 作業は必ず硬く平坦な地面で行う
  • ジャッキアップする際は必ず輪止めを使用する
  • ジャッキで上げた後は必ずリジッドラックで車体を支える
  • ジャッキだけで支えた状態で車体の下に潜るのは厳禁
  • 万が一に備え、外したタイヤを車体の下に入れると安全性が高まる
  • 車の重量や車高に合ったジャッキを選ぶ
  • 作業に不安があれば無理せずプロに依頼する
  • 安全対策を怠ると重大な事故に繋がることを常に意識する
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