固着してしまったネジを前に、いざ使おうと思った手動インパクトドライバー。しかし、本体にある「L」と「R」の表記を見て、インパクトのRとLは何を意味する?と手が止まってしまった経験はありませんか。インパクトドライバーの反対回しはどうやってやるの?と迷う方も少なくないでしょう。
この記事では、そんな疑問を解決するために、インパクトドライバーのLとRの基本的な意味から、正しいインパクトドライバーの回転方向の確認方法、さらにはインパクトドライバーを手動で使う仕組みまで、初心者の方にも分かりやすく解説します。

有名なベッセルのインパクトドライバーや、細かい作業に便利なマイクロインパクトドライバーの使い方にも触れていきます。インパクトドライバーを叩く際のコツや、叩いた力が回転に変わるインパクトドライバーのハンマーの仕組みを理解すれば、作業効率は格段に向上するはずです。
また、応用編としてショックドライバーが緩まない時の使い方や、インパクトドライバーで回らないネジはどうやって回すの?といった固着ネジへの最終手段、そして安全に使うために知っておきたいインパクトドライバーでやってはいけないことまで、幅広く網羅しました。
この記事を読めば、あなたの手動インパクトドライバーに関する知識が深まり、より安全で効果的な作業が可能になります。
- LとRの基本的な意味と正しい回転方向
- 固着したネジを緩めるための効果的な使い方
- ハンマーで叩く際の力加減と重要なコツ
- 安全に作業するための注意点と禁止事項
本記事の内容
インパクトドライバーのLとRの基本と回転の仕組み
- RとLは何を意味する?
- 回転方向の確認方法
- 反対回しはどうやるの?
- 手動インパクトドライバーのハンマーと仕組み
- ベッセルなど手動のインパクトドライバー
RとLは何を意味する?
結論から言うと、インパクトドライバーの「L」と「R」は、回転方向を示す記号です。
ほとんどの工具で共通の規格となっており、それぞれのアルファベットは英単語の頭文字に由来しています。具体的には、Rは「Right(右)」、Lは「Left(左)」を指し、多くの場合、ネジを締めるか緩めるかの操作に対応しています。
一般的に、ネジは「時計回り」で締まり、「反時計回り」で緩みます。この原則に当てはめて考えると、それぞれの記号が示す動作は以下のようになります。
記号 | 英語 | 回転方向 | 主な用途 |
---|---|---|---|
R | Right(右) | 右回転(時計回り) | ネジを締める |
L | Left(左) | 左回転(反時計回り) | ネジを緩める |
このように、固着したネジを緩めたい場合は「L」にセットするのが正解です。逆に、何らかの理由でネジを強く締め付けたい場合には「R」にセットします。ただし、手動インパクトドライバーは主に緩める作業に特化した工具なので、締める目的で使う機会は少ないかもしれません。

豆知識:なぜ「右回りで締まる」のか?
ネジが右回りで締まる理由は、多くの人が右利きであることに関係していると言われています。右利きの人がドライバーを時計回りに回す際、腕の筋肉を効率的に使い力を入れやすいため、この方式が世界的な標準となりました。一部、特殊な用途で左ネジ(逆ネジ)も存在しますが、日常で目にするネジのほとんどは右ネジです。
回転方向の確認方法
インパクトドライバーの回転方向は、本体の切り替え部分を「L」か「R」に合わせることで設定します。しかし、長年使っていなかったり、構造が分かりにくかったりすると、本当に設定した方向に回るのか不安になることもあるでしょう。
そのような場合は、実際にハンマーで叩く前に、簡単な方法で回転方向を確認できます。
確認の手順はとてもシンプルです。まず、ビット(先端工具)を装着し、緩めたいネジにしっかりと押し当てます。次に、本体を緩めたい方向(反時計回り)に軽く手でひねってみてください。このとき、ビットの先端がわずかにカチッと回転すれば、正しく緩める方向(L)にセットされています。
このわずかな回転分が、ハンマーで叩いたときに衝撃が回転力に変換される「あそび」の部分になります。もし逆にひねってカチッと動くようであれば、締める方向(R)にセットされている可能性が高いです。この事前確認を怠ると、固着したネジをさらに締め付けてしまい、状況を悪化させる恐れがあります。
反対回しはどうやるの?
「反対回し」がネジを緩める方向(反時計回り)を指すのであれば、その操作方法は非常に簡単です。
前述の通り、インパクトドライバー本体にある回転方向の切り替え部分を「L」(Left)にセットするだけで、反対回し(緩め方向)の準備は完了します。多くのモデルでは、グリップエンドや本体側面に切り替え用のリングやレバーがついています。
この設定を行った上で、以下の手順で作業を進めます。
- ビットをネジ頭に確実に合わせる。
- 本体をしっかりと握り、下方向に強く押し付ける。
- 緩める方向(反時計回り)に軽く力を加え、回転の「あそび」をなくす。
- その状態を維持したまま、グリップエンドをハンマーで垂直に叩く。

特に重要なのが3番目の工程です。叩く瞬間に回転方向の「あそび」が残っていると、衝撃エネルギーがうまく回転力に伝わらず、効果が半減してしまいます。叩く前に回転方向へテンションをかけておくことが、固着したネジを緩めるための最大のコツと言えるでしょう。
手動インパクトドライバーのハンマーと仕組み
手動インパクトドライバーが、ハンマーで叩くだけでなぜ回転するのか、その仕組みに疑問を持つ方もいるかもしれません。この独特の機能は、内部に組み込まれた「カム機構」によって実現されています。
本体の内部には、斜めの溝が彫られた部品が組み合わさっています。ハンマーでグリップエンドを叩くと、その衝撃(直進運動)が内部の部品を押し込みます。すると、斜めの溝に沿って部品が滑り、直進運動が強制的に回転運動へと変換されるのです。

この仕組みには、2つの大きなメリットがあります。
1. 絶大な回転トルク
ハンマーによる瞬間的な衝撃を回転力に変えるため、手で回すのとは比較にならないほど大きなトルク(回転力)を生み出します。これにより、サビやネジロック剤で固着したネジも緩めることが可能です。
2. カムアウトの防止
叩いた衝撃は回転力に変わると同時に、ビットをネジ頭に強く押し付ける力としても作用します。このため、ドライバーの先端がネジの溝から外れてしまう「カムアウト(なめる)」現象を効果的に防ぐことができます。「叩く力」「押す力」「回す力」が同時に作用する点が、この工具の最大の強みです。
このカム機構は、非常にシンプルでありながら効果的な設計のため、多くのメーカーで長年にわたり採用されています。構造が単純な分、耐久性が高く、メンテナンスも容易なのが特徴です。
ベッセルなど手動のインパクトドライバー
手動インパクトドライバーは、さまざまな工具メーカーから販売されていますが、中でも株式会社ベッセル(VESSEL)の製品は、プロからDIYユーザーまで幅広く支持されており、代名詞的な存在です。
ベッセルのインパクトドライバーは、堅牢な作りと精度の高いビットで知られています。長年のノウハウが詰まった製品は、確実な作業を約束してくれるでしょう。

もちろん、ベッセル以外にも優れた製品を製造しているメーカーは多数存在します。
- Koken(コーケン/山下工業研究所):
ソケットレンチなどで有名なメーカーで、インパクトドライバーも高品質。特に自動車やバイク整備のプロに人気があります。 - ANEX(アネックス/兼古製作所):
ドライバービットの専門メーカーとして知られ、その技術を活かしたインパクトドライバーは評価が高いです。 - SIGNET(シグネット):
コストパフォーマンスに優れた工具を多く展開しており、DIYユーザーにも手に入れやすい価格帯の製品があります。
これらの製品は、基本的な仕組みは同じですが、グリップの形状、付属するビットの種類、本体のサイズなどに違いがあります。例えば、バイクのエンジン周りなど、狭い場所で使うならコンパクトなモデルが便利です。自分の用途や手の大きさに合った製品を選ぶことが重要になります。
インパクトドライバーにおけるLとRの使い方と注意点
- 正しく叩く方法は?
- マイクロ インパクトドライバーの使い方
- ショックドライバーでも緩まない時の使い方
- 回らないネジはどうやって回す?
- やってはいけないこと
正しく叩く方法は?
インパクトドライバーの効果を最大限に引き出すには、ただ力任せに叩くのではなく、いくつかのコツを押さえる必要があります。正しい叩き方をマスターすることで、ネジや工具、そして対象物を傷つけるリスクを減らせます。
正しい叩き方の手順
- 準備:
まず、ネジ頭のサビや汚れをワイヤーブラシなどで清掃し、ビットが奥までしっかりはまる状態にします。
ネジの溝に合ったサイズのビットを選ぶことが大前提です。 - 構え:
インパクトドライバーをネジに対して完全に垂直に立てます。
少しでも斜めになっていると、力が逃げてしまい効果がありません。 - 押し付けと回転:
本体を強く下に押し付けながら、緩めたい方向(反時計回り)に回転方向の遊びがなくなるまで力を加えておきます。
この「押し付け7割、回す力3割」の意識が重要です。 - 打撃:
構えを維持したまま、グリップエンドの中心を、ある程度の重さがあるハンマー(鉄ハンマーなど)で「ガンッ」と一撃で叩きます。
中途半端にコツコツ叩くと衝撃が伝わりにくくなります。

叩く際の力加減は、最初は軽めに叩いて様子を見ましょう。一度で緩まなくても、同じ作業を数回繰り返すことで、固着が剥がれてくることがあります。焦って最初から全力で叩くのは避けてください。
ハンマーを振り下ろす際は、手首のスナップを効かせるのではなく、腕全体で振り下ろし、インパクトの瞬間にさらに押し込むようなイメージを持つと、力が伝わりやすくなりますよ。
マイクロ インパクトドライバーの使い方
マイクロインパクトドライバーは、その名の通り、通常のインパクトドライバーよりも小型のモデルです。主に、精密機器や小型のネジに対して使われることが多い工具です。
基本的な使い方は通常のインパクトドライバーと同じですが、対象が小さくデリケートなため、より繊細な操作が求められます。
通常のモデルとの主な違いは以下の通りです。
- サイズと重量:
非常にコンパクトで軽量なため、狭い場所での作業や、上向きの作業でも疲れにくいのが特徴です。 - 対応ビット:
一般的な6.35mmの六角軸ビットではなく、より細い精密ドライバー用のビットを使用するモデルもあります。 - 叩く力:
対象が小さいため、使用するハンマーも小型のものが適しており、叩く力もより細かく調整する必要があります。
例えば、カメラのレンズマウントのネジや、古い音響機器の固着したネジなど、通常のドライバーではびくともしないが、大きなインパクトドライバーではネジや本体を破壊してしまう恐れがある…といった場面で真価を発揮します。マイクロインパクトドライバーを使う際は、対象物をしっかり固定し、通常以上に慎重な力加減を心がけることが大切です。

ショックドライバーでも緩まない時の使い方
※ショックドライバーは、手動インパクトドライバーの別名です。
正しい手順でインパクトドライバーを使っても、ネジが全く緩む気配がない場合があります。これは、サビや熱による固着が非常に強固な状態です。そんな時は、いくつかの補助的な手段を組み合わせることで、緩む確率を格段に高めることができます。
固着ネジへの合わせ技
1. 浸透潤滑剤の活用
ネジの頭や隙間に、ラスペネやWD-40といった高性能な浸透潤滑剤を吹き付けます。
すぐに作業せず、10分~15分ほど放置して、潤滑剤がネジ山の奥まで浸透するのを待つのがコツです。
これにより、サビによる固着が緩和されます。
2. 加熱処理
対象の部材が熱に強い金属である場合に有効な方法です。
ヒートガンやバーナーでネジの周辺を加熱します。
金属は熱で膨張しますが、ネジ(雄ネジ)とネジ穴(雌ネジ)の膨張率の違いや、その後の冷却による収縮で、固着面に隙間が生まれます。
加熱後は、部材が冷めないうちに再度浸透潤滑剤を吹き付け、インパクトドライバーで叩くと非常に効果的です。

加熱処理を行う際は、周囲に燃えやすいものがないか十分に確認し、プラスチックやゴム部品を溶かさないように注意が必要です。また、火傷にも十分気をつけてください。これらの合わせ技を試しても緩まない場合は、次のステップを検討する必要があります。

回らないネジはどうやって回す?
インパクトドライバーを使っても回らず、最終的にネジ頭の溝が潰れてしまった(なめてしまった)場合、別の工具が必要になります。
ネジ頭の状態によって、いくつかの対処法が考えられます。
軽度のなめの場合
まだ少し溝が残っている場合は、ワンサイズ大きいプラスビットや、マイナスビットを叩き込んで新たな溝を作る方法があります。マイナスビットをハンマーで叩き込み、簡易的な溝を作ってから、再度インパクトドライバーや大型のマイナスドライバーで回すことを試みます。
重度のなめの場合
ネジ頭が完全に丸くなってしまった場合は、専用の工具の出番です。
- ネジ外しプライヤー(ネジザウルスなど):
特殊な先端形状で、潰れたネジ頭をがっちり掴んで回すことができるプライヤーです。
ネジ頭が少しでも出っ張っている場合に有効です。

- スクリューエキストラクター(逆タップ):
潰れたネジ頭の中心にドリルで下穴を開け、そこに逆ネジが切られた特殊なビットをねじ込んでネジを抜き取る工具です。
最終手段として非常に有効ですが、作業には技術が必要です。

これらの工具を使っても外れない場合は、ネジそのものをドリルで破壊して取り除くしかありません。そうなる前に、インパクトドライバーを正しく使い、慎重に作業を進めることが何よりも大切です。
やってはいけないこと
インパクトドライバーは非常に便利な工具ですが、使い方を誤るとネジや対象物を破損させたり、自身が怪我をしたりする危険性があります。安全に作業するために、以下の点は必ず守ってください。
インパクトドライバーの禁止事項
1. 保護具なしでの作業
ハンマーで金属を叩くため、金属片が飛散する可能性があります。
保護メガネは必ず着用してください。
また、ハンマーで手を叩いてしまうリスクを減らすため、作業用手袋の着用も推奨します。
2. 過度な力での打撃
緩まないからといって、いきなり大型のハンマーで全力で叩くのは危険です。
対象の部材が割れたり、工具自体が破損したりする原因になります。
力加減は徐々に強くしていくのが基本です。
3. 不安定な状態での作業
対象物がしっかり固定されていない状態で叩くと、衝撃で対象物が動いてしまい、力が正しく伝わらないだけでなく、思わぬ事故につながります。
作業前に対象物が安定しているか確認してください。
4. 連続での打撃(連打)
インパクトドライバーは一撃の衝撃を回転力に変える工具です。
焦って連続で叩くと、一撃ごとにビットとネジ頭の位置が微妙にずれ、カムアウト(なめ)の原因になります。
一回叩いたら、一度仕切り直して構えを確認することが重要です。
これらの注意点を守ることで、安全かつ効率的にインパクトドライバーの性能を引き出すことができます。
総括:インパクトドライバーのLとRを使いこなす要点
この記事で解説した、インパクトドライバーのLとRの意味から、正しい使い方、注意点までの要点を以下にまとめます。
- LはLeft(左回転)でネジを緩める時に使用する
- RはRight(右回転)でネジを締める時に使用する
- 使用前には必ず回転方向をLにセットしたか確認する
- 叩く前に緩める方向へ軽く力を加え「あそび」をなくすのが最大のコツ
- ハンマーはグリップエンドに対し垂直に当てる
- 叩く際は腕全体を使い、押し込むように一撃で叩く
- 最初は軽く叩き、様子を見ながら徐々に力を強くする
- 安全のため保護メガネと作業手袋を必ず着用する
- ネジ頭のサイズや溝の形状に完全に合ったビットを選ぶ
- 固着がひどい場合は浸透潤滑剤をスプレーして時間を置く
- 熱に強い部材であれば加熱処理も非常に効果的
- 叩く前にネジ頭の汚れやサビを清掃しておく
- 焦って連続で叩くとネジをなめる原因になるので避ける
- ビットの先端が摩耗していないか定期的にチェックする
- 手動式は電動インパクトと違い、繊細な力加減ができるのが利点