車のタイヤ交換をご自身で行う際、愛車の指定トルクが103N・mで、その合わせ方に困ってはいませんか。
トルクレンチのトルクの合わせ方は一見複雑に思え、特にプレセット型の独特な目盛りの見方や読み方に慣れていないと、本当に正しく設定できているか不安になるかもしれません。
この記事では、そんなあなたのために、トルクレンチで103N・mに合わせる具体的な手順を分かりやすく解説します。
さらに、85N・mや108N・m、120N・mといった他の数値への設定目盛りの合わせ方はもちろん、失敗しないためのトルクレンチの調整方法や正しい締め方、車種別の締め付けトルク表まで、網羅的にご紹介します。
この記事を最後まで読めば、トルクレンチの正しい使い方をマスターし、安全で確実なメンテナンスができるようになるでしょう。
- プレセット型トルクレンチを使った103N・mの具体的な設定手順
- 85N・mや108N・mなど他のトルク値に応用できる目盛りの合わせ方
- オーバートルクを防ぐための正しい締め方と使用上の注意点
- 車種ごとの適切な締め付けトルク値の調べ方と目安

本記事の内容
初心者必見!トルクレンチの103N・mの合わせ方
- そもそものトルクの合わせ方は?
- プレセット型の目盛りの見方・読み方
- 設定目盛りの合わせ方
- 【応用編】108N・m、120N・mの合わせ方
- 【応用編】 85N・mの合わせ方
そもそものトルクの合わせ方は?
トルクレンチのトルクを合わせる方法は、主にお持ちのレンチの種類によって異なります。
なぜなら、トルクレンチには大きく分けて「プレセット型」「デジタル型」「ダイヤル型・プレート型」といった種類があり、それぞれでトルク値を設定したり読み取ったりする仕組みが根本的に違うからです。
たとえば、車のタイヤ交換で最も一般的に使用される「プレセット型」は、グリップ部分を回して本体に刻まれた目盛りを読み、目標のトルク値をあらかじめ設定しておくタイプです。
設定したトルクに達すると「カチッ」という音や手応えで知らせてくれるため、作業者による締め付けトルクのばらつきが少なく、非常に便利です。
一方で「デジタル型」は、液晶画面に表示される数値をボタンで直接入力するため、設定ミスが起こりにくく直感的に扱えます。
しかし、価格が比較的高価である点や、バッテリーが必要になるという側面も持ち合わせています。
そして「ダイヤル型」や「プレート型」は、締め付けながら針の動きを目で見てトルク値を確認する直読式です。
現在の締め付けトルクをリアルタイムで把握できるメリットがありますが、締め付け作業をしながら正確に目盛りを読み取る必要があり、やや慣れが求められるでしょう。
このように、トルクの合わせ方は一通りではありませんが、この記事では最も普及しているプレセット型の合わせ方を中心に解説していきます。
プレセット型の目盛りの見方・読み方
プレセット型トルクレンチのトルク値は、「主目盛」と「副目盛」という2種類の目盛りを組み合わせて読み取ります。
この2つを足し算することで、1N・mといった細かい単位での精密なトルク設定が可能になるのです。
まず「主目盛」は、トルクレンチ本体のシャフト部分に刻まれている、基準となる大きな数値の目盛りのことです。
多くの製品では、20、40、60といったように、10N・mや20N・m刻みで数値が記されています。
ここで大まかなトルク値を設定すると考えると分かりやすいでしょう。
次にもう一つの「副目盛」は、回転するグリップ部分に刻まれている目盛りを指します。
こちらは0から9などの細かい目盛りが付いており、グリップを1回転させると、主目盛のちょうど1目盛り分(例えば10N・m)のトルク値が増減する仕組みになっています。
言ってしまえば、副目盛は主目盛の間の数値を微調整するためのダイヤルなのです。
実際の読み方としては、まず主目盛で目標値に最も近い数値を設定します。
仮に主目盛の「100」の線に、副目盛の「0」を合わせた場合、設定トルクは100N・mとなります。
そこからグリップを少し回して、副目盛の「3」を主目盛のセンターラインに合わせれば、「100N・m+3N・m」で合計103N・mと読み取れるわけです。
このように、主目盛と副目盛の役割を理解することが、正確なトルク設定への第一歩となります。
設定目盛りの合わせ方

103N・mにトルクを設定するには、主目盛で100N・mを基準とし、副目盛で残りの3N・mを精密に加える手順を踏みます。
ほとんどのプレセット型トルクレンチでは、主目盛が10N・m単位で刻まれているため、まずキリの良い100N・mに合わせるのが最も簡単で間違いのない方法です。
具体的な手順は以下の通りです。
はじめに、トルクレンチのグリップエンドにあるロックつまみを反時計回りに回すか、スライド式のロックリングを引き下げるなどして、グリップが回るようにロックを解除してください。
次に、ロックが解除された状態でグリップを時計回りに回し、グリップの縁(ふち)を主目盛に刻まれた「100」のラインに合わせます。
このとき、グリップ側にある副目盛の「0」が、主目盛の縦のセンターラインにぴったりと重なっていることを確認しましょう。
これで、トルクレンチは正確に100N・mに設定された状態になります。
そして、その状態からさらにグリップをゆっくりと時計回りに回していきます。
副目盛の数字が「1、2、3」と動いていくので、副目盛の「3」の目盛りが主目盛のセンターラインと完全に一致したところで回転を止めます。
これにより、「主目盛100N・m」に「副目盛3N・m」が加算され、合計103N・mの設定が完了しました。
最後に、作業中に設定値がずれてしまうのを防ぐため、最初に解除したロックつまみを確実に締めてグリップを固定することを忘れないようにしましょう。
【応用編】108N・m、120N・mの合わせ方

108N・mや120N・mといった異なるトルク値への設定も、基本的な考え方は103N・mの時と全く同じです。
設定したい数値が変わっても、主目盛で基準となる数値を設定し、副目盛で端数を調整するというプレセット型トルクレンチの原理を応用するだけで対応できます。
たとえば、108N・mに設定する場合を見ていきましょう。
まず、主目盛の「100」のラインに副目盛の「0」を合わせて、100N・mの状態を作ります。
そこからさらにグリップを回していき、今度は副目盛の「8」の目盛りが主目盛のセンターラインに重なるように調整してください。
これで「100N・m + 8N・m」、つまり108N・mの設定が完了します。
次に、120N・mのようなキリの良い数値に合わせる場合は、さらに簡単です。
グリップを回していき、主目盛に刻まれている「120」のラインに、副目盛の「0」を合わせるだけで設定は完了となります。
この場合、副目盛で調整する必要はありません。
ただし、注意点として、ごく稀にトルクレンチの最大値付近で主目盛が省略されている製品もあります。
その場合は、例えば「100」の主目盛に副目盛を2回転(20N・m分)させて合わせるなどの対応が必要になることもありますが、ほとんどの製品では主目盛の数値をそのまま利用することが可能です。
このように、一度仕組みを理解すれば、様々なトルク値に迷わず設定できるようになります。
【応用編】 85N・mの合わせ方

軽自動車などで指定されることが多い85N・mに合わせる場合も、これまでの応用で対応可能です。
主目盛で80N・mを基準に設定し、副目盛で残りの5N・mを足すという手順を踏むのが最も分かりやすいでしょう。
具体的な合わせ方は、まずグリップのロックを解除し、グリップを回して主目盛の「80」のラインに副目盛の「0」を合わせます。
この状態でトルクレンチは80N・mに設定されています。
そこからさらにグリップを時計回りにゆっくりと回し、副目盛の「5」の目盛りが主目盛のセンターラインにぴったりと重なるところで止めます。
これにより「80N・m + 5N・m」となり、合計85N・mの設定が完了しますので、最後に忘れずにグリップをロックしてください。
ただ、ここで一つ注意点があります。
使用したいトルク値が、お持ちのトルクレンチの設定範囲の下限や上限に近すぎる場合は、精度が若干低下する可能性があるということです。
例えば、設定範囲が「40~200N・m」のトルクレンチで85N・mを使用するのは問題ありませんが、もし「20~100N・m」のレンチで95N・mを頻繁に使うような場合は、レンチにとって負荷が高い状態が続くことになります。
理想を言えば、最もよく使用するトルク値が、レンチの測定範囲の真ん中あたりに来る製品を選ぶことが、精度と耐久性の両面から推奨されます。
もちろん、たまに使用する程度であれば大きな問題にはなりませんが、工具を長く大切に使うための豆知識として覚えておくと良いでしょう。
トルクレンチ103N・mの合わせ方と正しい使い方
- 失敗しない調整方法とロック機構
- 意外と知らない?正しい締め方は?
- 【車種別】ホイールナットの締め付けトルク表
- ダブルチェックはNG!オーバートルクの危険性
- 緩めるのは厳禁!使用時の注意点
- 寿命を延ばす!正しい保管方法
失敗しない調整方法とロック機構

トルクレンチで正確なトルクを設定するためには、調整後のロック機構の活用が不可欠です。
なぜなら、ロックを忘れてしまうと、締め付け作業中にグリップが意図せず回転し、せっかく合わせたトルク値がずれてしまうからです。
これでは、オーバートルクや締め付け不足といったトラブルの原因になりかねません。
トルクレンチのロック機構には、主に2つのタイプが存在します。
一つは、グリップのお尻の部分についている「つまみ(ネジ)式」です。
これは、つまみを時計回りに回すとロックされ、反時計回りに回すと解除される仕組みになっています。
もう一つは、グリップ自体に組み込まれている「スライド式(ロックリング式)」です。
こちらは、グリップにあるリングを引き下げることでロックが解除され、手を離すと自動的にロックされるタイプが多く、操作が非常に簡単です。
トルク値を調整する際には、少しコツがあります。
特に、設定トルクを大きくしていく(グリップを時計回りに回す)と、最大値に近づくにつれて内部のスプリングが強く圧縮されるため、グリップの回転が重く、固く感じられるようになります。
このとき、無理に片手で回そうとせず、両手でトルクレンチ本体とグリップを持ち、雑巾を絞るようなイメージで力を加えると、比較的楽に回すことが可能です。
いずれにしても、トルク値の設定が完了したら、必ずロック機構が確実に作動していることを確認する習慣をつけましょう。
この一手間が、安全で信頼性の高い作業を実現するのです。
意外と知らない?正しい締め方は?

トルクレンチの性能を100%引き出すには、正しい締め方をマスターする必要があります。
ただ単に力をかければ良いというわけではなく、握る位置や力の加え方など、いくつかの重要なポイントが存在します。
まず最も大切なのが、「握る位置」です。
ほとんどのトルクレンチのグリップには、力をかけるべき基準点を示すマークやラインが刻印されています。
正確なトルクをかけるためには、このマークに自分の中指がかかるように握ってください。
もしマークがない場合は、グリップのちょうど中央を握るのが基本です。
この基準点よりヘッドに近い部分を短く持つと、てこの原理でより大きな力が必要になり、結果として設定値を超える「オーバートルク」になりがちです。
逆に、グリップエンド側を長く持つと、軽い力でシグナルが発生してしまい、締め付け不足の「アンダートルク」になる可能性があります。
次に、「力の加え方」です。
トルクレンチを回す際は、焦らずに「じわーっ」と滑らかに、一定のスピードで力を加えていくことが肝心です。
急にガツンと力をかけると、その反動で「カチッ」というシグナルが出た後も余計に締め付けてしまい、オーバートルクの原因となります。
そして、プレセット型トルクレンチの場合、設定トルクに達すると「カチッ」という音と、手に軽いショックが伝わります。
これが「締め付け完了」の合図ですので、このシグナルを感じたら、それ以上は一切力を加えずに、すぐにレンチをナットから外してください。
不安にかられて、もう一度「カチッ」と鳴らすのは厳禁です。
【車種別】ホイールナットの締め付けトルク表
車のホイールナットを締め付けるトルク値は、メーカーや車種、さらには年式やグレードによっても厳密に指定されています。
自己判断で締め付けるのではなく、必ずご自身の車に適合した規定値を守ることが、安全な走行の大前提となります。
一般的な目安として、軽自動車では約80~100N・m、普通自動車では約100~120N・mの範囲に設定されていることが多いです。
しかし、これはあくまで参考値に過ぎません。
以下に、代表的な車種の締め付けトルク値の例をまとめました。
メーカー | 車種名 | 締め付けトルク(例) |
---|---|---|
ホンダ | N-BOX | 108N・m |
スズキ | ハスラー | 85N・m |
トヨタ | アクア | 103N・m |
トヨタ | ハイエース | 100N・m |
日産 | ノート | 108N・m |
このように、車種によってトルク値は様々です。
ご自身の車の正確な規定トルクを調べるには、まず車に備え付けの「取扱説明書」を確認するのが最も確実な方法です。
もし手元にない場合は、車を購入したディーラーに問い合わせるか、各自動車メーカーの公式ウェブサイトで確認することもできます。
古い整備マニュアルなどでは、トルクの単位が「kgf・m(キログラムメートル)」で表記されていることもありますが、その場合は「1kgf・m ≒ 9.8N・m」として換算してください。
ダブルチェックはNG!オーバートルクの危険性
トルクレンチでの締め付け作業において、やってしまいがちな失敗の一つが「ダブルチェック」です。
これは、「カチッ」とシグナルが鳴った後、本当に締まっているか不安になり、念のためにもう一度「カチッ」と鳴らしてしまう行為を指します。
しかし、このダブルチェックはオーバートルクを招く非常に危険な行為であり、絶対に避けるべきです。
プレセット型トルクレンチの「カチッ」というシグナルは、「今、設定したトルク値に到達しましたよ」という完了の合図です。
その後にさらに力を加えるということは、設定値を超えて「増し締め」をしているのと同じことになります。
オーバートルクは、締め付け不足と同じか、それ以上に深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。
例えば、ボルトやナットのネジ山が潰れてしまったり、ボルト自体が引き伸ばされて金属疲労を起こし、走行中の振動で突然折れてしまったりする危険性があるのです。
また、ホイールを車体に取り付けている「ハブ」という部品が歪んでしまい、ハンドルのブレや異音の原因になることもあります。
一度オーバートルクで締め付けられたナットは、次に緩めようとしても固着して外れなくなるなど、将来のメンテナンス性も著しく低下させます。
「しっかり締めた方が安心」という気持ちは分かりますが、それは誤った認識です。
トルクレンチのシグナルは一度だけ。
それを信じて作業を完了させることが、最も安全で確実な方法なのです。
緩めるのは厳禁!使用時の注意点

トルクレンチを使用する上で、絶対に守らなければならない鉄則があります。
それは、「ボルトやナットを緩める作業には絶対に使用しない」ということです。
トルクレンチはあくまで「締め付けトルクを正確に測定するための精密測定工具」であり、固く締まったナットを緩めるような、大きな力をかける作業には全く向いていません。
なぜなら、ボルトやナットを緩める際には、締め付けた時よりもはるかに大きな力が必要になるケースがほとんどだからです。
特に、雨水などで錆びついて固着したナットを緩める力は、規定トルクの数倍に達することもあります。
このような過大な負荷をトルクレンチにかけてしまうと、内部のトルクを感知するスプリングやカムといった精密な機構が変形したり、破損したりする原因になります。
一度でも内部機構にダメージを受けると、トルクレンチは二度と正確な値を測定できなくなり、ただの「高価なレンチ」になってしまいます。
ラチェットヘッドに回転方向の切り替えレバーが付いている製品もありますが、これは主に逆ネジを「締める」ためにあるもので、緩め作業を推奨するものではありません。
ナットを緩める際は、必ずスピンナハンドル(ブレーカーバー)やクロスレンチといった、緩め作業専用の頑丈な工具を使用してください。
トルクレンチは「測定器」、スピンナハンドルは「作業工具」という、それぞれの役割を正しく理解し、適切に使い分けることが重要です。
寿命を延ばす!正しい保管方法

高価なトルクレンチの精度を長期間維持し、寿命を延ばすためには、使用後の正しい保管方法が極めて重要になります。
トルクレンチは精密測定工具であるため、少しの油断が故障や精度低下に直結することを常に意識しておく必要があります。
まず、プレセット型トルクレンチを使い終わったら、必ずトルク設定をそのレンチが測定できる「最低値」に戻してください。
これは、内部のスプリングに負荷がかかったままの状態で長期間放置すると、スプリングが伸びきってしまう「へたり」という現象が起き、正確なトルク測定ができなくなるのを防ぐためです。
ただし、最低測定値を下回るまで緩めすぎると、逆に故障の原因になるため注意しましょう。
次に、保管する前には、本体に付着した水分、油分、泥などの汚れを柔らかい布で綺麗に拭き取ります。
汚れや湿気はサビの発生源となり、内部機構の劣化を早めてしまいます。
清掃が終わったら、購入時に付属していた専用のケースに収納し、高温多湿や振動の多い場所を避けて保管するのが理想です。
ケースの中に、お菓子などに入っている乾燥剤(シリカゲル)を一緒に入れておくと、湿気対策としてさらに効果的です。
そして当然のことながら、トルクレンチは精密機器ですので、落下させたり、ハンマーのように叩きつけたりするような衝撃を与える行為は絶対に避けてください。
このような丁寧な扱いと正しい保管を心がけることが、結果的に安全な作業と工具への投資を守ることにつながるのです。
トルクレンチ103N・mの合わせ方の要点
次のように記事の内容をまとめました。
- トルクレンチにはプレセット型、デジタル型、ダイヤル型などがある
- プレセット型は「主目盛」と「副目盛」を組み合わせて設定する
- 103N・mに合わせる際は、主目盛100N・m+副目盛3N・mで設定
- 108N・mは主目盛100N・m+副目盛8N・mで設定可能
- 85N・mは主目盛80N・m+副目盛5N・mで設定する
- トルク値の設定後は、必ずグリップのロック機構を作動させる
- グリップは中央の基準点を、中指がかかるように握るのが基本
- 力を加える際は、滑らかに一定のスピードで締め付ける
- 「カチッ」というシグナルは一度だけで、ダブルチェックは厳禁
- オーバートルクはボルトの破損やネジ山の潰れを招く
- 車種ごとに規定トルクが違うため、必ず取扱説明書で確認する
- トルクレンチをボルトやナットを緩める作業に使ってはならない
- 使用後は必ずトルク設定を最低値に戻して保管する
- 本体の汚れを拭き取り、専用ケースで高温多湿を避けて保管
- 落下などの衝撃は精度を狂わせるため、丁寧に扱う必要がある