ギターのカスタマイズとして代表的なピックアップ交換。しかし、いざ新しいピックアップを手に入れたものの、ボディの穴(ザグリ)のサイズが合わず取り付けられない、という経験はありませんか。
この記事では、そんな時に役立つギターのザグリ加工について、特にDIYで行う方法を詳しく解説します。

電動ドリルを使った基本的なやり方から、既存のザグリを広げる際の注意点、さらにはノミやギター彫刻刀といった手工具での作業のコツまで、一通りの流れを網羅します。また、よりプロに近い綺麗な仕上がりを目指す方向けに、トリマーやミニルーターといった専門工具の活用法や、適切なギター用トリマービットの選び方にも触れていきます。
ギターのザグリ加工は正しい知識と手順を踏めば、DIYでも十分に可能です。あなたの愛器を理想の一本に仕上げるための一歩を、この記事と共に踏み出しましょう。
- 電動ドリルを使った基本的なザグリ加工の手順
- ノミや彫刻刀など手工具を使った手作業のコツ
- トリマーなど専門工具を使った綺麗な仕上げ方
- 安全に作業を進めるための重要な注意点
本記事の内容
ギターのザグリ加工を電動ドリルで行う基礎知識
- DIYでザグリ加工を行う際の注意点
- ザグリ加工をギターに行う目的
- ドリルで多数の穴を開けてから削る
- ノミを使った荒削りの基本的な方法
- ギターを彫刻刀で仕上げる際のコツ
- 既存のザグリを広げる時のポイント
DIYでザグリ加工を行う際の注意点
DIYでギターのザグリ加工に挑戦する際、最も重要なのは安全の確保とギター本体へのダメージ防止です。電動工具は非常に便利ですが、一歩間違えれば大きな怪我に繋がる危険性をはらんでいます。また、作業に失敗すると、大切なギターに修復困難な傷を付けてしまう可能性もあります。
まず、作業前には必ず保護メガネを着用し、木くずを吸い込まないようにマスクも準備しましょう。作業スペースは十分に確保し、工具や材料で散らからないように整理整頓を心がけることが大切です。ギター本体が作業中に動かないよう、クランプなどでしっかりと作業台に固定する必要があります。

そして、いきなり本番のギターに手をつけるのではなく、まずは同じような厚さの端材(練習用の木材)で十分に練習を重ねてください。工具の扱い方や削れる感覚を体に覚えさせてから本番に臨むことで、失敗のリスクを大幅に減らすことができます。
DIY作業の心構え
焦りは禁物です。「少し削りすぎた」は取り返しがつきません。常に「少し足りないかな?」くらいで作業を進め、何度もパーツをあてがって確認しながら、慎重に加工を進めることが成功への一番の近道です。
ザグリ加工をギターに行う目的
ギターにザグリ加工を施す主な目的は、搭載するパーツの変更や追加に対応するためです。ギターは様々なパーツで構成されており、それぞれのパーツには決まったサイズや形状があります。元々取り付けられているパーツとは異なる規格のパーツを載せたい場合に、ザグリの拡張や新設が必要になります。
具体的な例をいくつか見てみましょう。
ピックアップの交換・増設
最も一般的なのがピックアップに関する加工です。例えば、シングルコイルピックアップが搭載されたストラトキャスターに、よりパワフルなハムバッカーピックアップを載せたい場合、シングルコイル用の小さなザグリをハムバッカーのサイズに合わせて広げる必要があります。逆に、ハムバッカーのギターにP-90タイプのピックアップを載せる際にも、形状が異なるため加工が必要です。また、アクティブピックアップを導入する際には、9V電池を収納するスペースを新たに設ける加工も行われます。

ブリッジの変更
ブリッジユニットを交換する際にもザグリ加工が必要になることがあります。特に、シンクロナイズドトレモロからフロイドローズのようなロック式トレモロユニットに変更する場合、スプリングを収めるボディ背面のザグリだけでなく、ボディ表面にも大きな加工が求められます。
音への影響は?
ボディの木部を削るため、ザグリ加工はギターの鳴り(生音)に影響を与える可能性があります。一般的に、木材を取り除く量が多いほど、鳴りはオープンでやや軽いキャラクターに、逆に埋め木をするなどして木材の質量が増えると、タイトで引き締まったサウンドになる傾向があると言われています。もっとも、その変化は微妙なものであり、出音のキャラクターを大きく左右するのはピックアップや他のパーツの要素が強いです。とはいえ、このような変化の可能性も念頭に置いておくと良いでしょう。
ドリルで多数の穴を開けてから削る
電動工具を使わずにザグリ加工を行う場合、いきなりノミや彫刻刀で木材を掘り進めるのは非常に大変な作業です。そこで、加工したい範囲に電動ドリルで複数の穴を開けておくという下準備が非常に有効になります。
この工程の目的は、後工程であるノミでの作業を格段に楽にするためです。あらかじめドリルで木材の大部分を取り除いておくことで、力任せに木を削る必要がなくなり、より効率的かつ安全に作業を進めることができます。

ドリルを使った下穴加工の手順
- マーキング:
まず、ザグリたい範囲の正確な寸法をボディに鉛筆などで書き込みます。 - 穴あけ:
マーキングした線の内側に、ビットが線にかからないように注意しながら、ドリルで穴を複数開けていきます。
穴同士が近すぎると隣の穴に刃が取られて危険なため、少し間隔を空けましょう。 - 深さの管理:
目的の深さ以上に掘り進めないよう、ドリルのビットにマスキングテープなどで目印を付けておくと安心です。
大工さんなどのプロも、ノミを入れる前にドリルで粗方削っておくことがあるんですよ。特に「フォスナービット」という先端が平らなドリルビットを使うと、穴の底面を平らに削れるので、その後の作業がさらにスムーズになります。
ノミを使った荒削りの基本的な方法
電動ドリルで下準備を終えたら、いよいよノミを使って本格的に木材を削り出していきます。この工程では、ドリルで開けた穴と穴の間にある壁を崩し、ザグリの形を大まかに整えることが目的です。

作業のコツは、一度にたくさん削ろうとせず、少しずつ木材を取り除いていくことです。ノミの刃をマーキングしたラインの内側に当て、木目に沿ってハンマーで軽く叩いて削り進めます。木目に逆らって刃を入れると、木が意図しない方向に裂けてしまい、ザグリのラインを越えてボディを傷つけてしまう危険性があるので注意が必要です。
刃の向きも重要です。ノミには平らな面と斜めに角度がついた面がありますが、ザグリの壁面を垂直にしたい場合は、平らな面をザグリの内側(残す側)に向けて作業します。これにより、壁面が綺麗に仕上がりやすくなります。
ハンマーの力加減に注意
ハンマーを強く振り下ろしすぎると、ノミが滑って手を怪我したり、ギター本体を傷つけたりする原因になります。コン、コン、と小気味よく、コントロールできる範囲の力で叩くようにしましょう。
ギターを彫刻刀で仕上げる際のコツ
ノミで大まかな形ができたら、次は彫刻刀を使って仕上げの工程に入ります。ここでの目的は、ザグリの壁面や底面を滑らかに整え、細部の形状を正確に作り出すことです。仕上がりの美しさは、この工程の丁寧さにかかっていると言っても過言ではありません。

平刀を使って壁面や底面をカンナがけのように滑らかにしたり、角の部分(コーナー)を正確な直角に整えたりします。ピックアップの足が収まる部分など、細かい溝が必要な場合は、丸刀や三角刀を使い分けると良いでしょう。
電動工具を持っている場合は、電動ドライバーやミニルーターに「回転ヤスリ」を取り付けて使用するのも一つの手です。特にコーナー部分を直角に仕上げる際には、三角柱の回転ヤスリなどが役立ちます。ただし、回転工具は手作業よりも削るスピードが速いため、削りすぎないよう慎重な操作が求められます。
最終的には紙ヤスリ(サンドペーパー)を木片などに巻き付け、手作業でサンディングして仕上げると、より滑らかな面を作り出すことができます。
既存のザグリを広げる時のポイント
新規にザグリを設けるのではなく、既存のザグリを拡張する場合、特に注意が必要です。ポイントは、拡張する範囲を正確にマーキングし、元のザグリの壁を基準に少しずつ削っていくことです。
まず、搭載したい新しいパーツ(ピックアップなど)の実物や、メーカーが提供しているテンプレートを使い、ボディに正確な完成形のアウトラインを描きます。この時、元のザグリの中心と新しいパーツの中心が合うように位置決めをすることが重要です。
マーキングができたら、その線よりわずかに内側を目安に削り始めます。ドリルで下穴を開ける方法はここでも有効ですが、元のザグリの縁に近い部分は特に慎重に作業してください。削りすぎてしまうと、パーツを固定するネジ穴の位置がズレたり、ピックガードで隠せない隙間ができてしまったりする原因になります。
作業中は、頻繁にパーツを実際にあてがってみて、干渉する部分を確認しながら進めましょう。現物合わせで少しずつ削っては確認、を繰り返す地道な作業が、最終的な成功に繋がります。
ギターのザグリ加工を電動ドリルと専門工具で攻略
- 綺麗な仕上がりを目指すならトリマー
- ギター用トリマービットの選び方
- ミニルーターを使った細かい部分の加工
- 作業の安全を確保するための注意点
- まとめ:ギターのザグリ加工と電動ドリルの要点
綺麗な仕上がりを目指すならトリマー
電動ドリルと手工具だけでもザグリ加工は可能ですが、まるで売り物のようなプロレベルの綺麗な仕上がりを目指すのであれば、トリマーは必須の電動工具と言えるでしょう。

トリマーは、モーターの力で先端に取り付けた「ビット」と呼ばれる刃物を高速回転させ、木材を削り出す工具です。その最大のメリットは、非常に滑らかで正確な平面や垂直な側面を作り出せる点にあります。手作業では難しい、均一な深さのザグリや、完全に垂直な壁面も、トリマーを使えば比較的容易に実現できます。
特に、加工したい形状に合わせた「テンプレート(治具)」と呼ばれる型板を用意し、その型板に沿ってトリマーを動かすことで、何度でも同じ形状を正確に削り出すことが可能です。これにより、ピックアップキャビティやネックポケットなど、高い精度が求められる部分の加工品質が飛躍的に向上します。
トリマーの危険性について
トリマーは非常に便利な反面、扱い方を間違えると大変危険な工具でもあります。高速回転する刃物に木材が食い込み、本体が作業者の意図しない方向へ強く弾かれる「キックバック」という現象が起こることがあります。使用する際は、本体を両手でしっかりと保持し、無理な負荷をかけないように注意してください。もちろん、保護メガネの着用は必須です。
ギター用トリマービットの選び方
トリマーの性能を最大限に引き出し、目的の加工を行うためには、用途に合った適切な「ビット」を選ぶことが極めて重要です。ビットの種類やサイズを間違えると、仕上がりが悪くなるだけでなく、思わぬ事故の原因にもなりかねません。

ギター製作や改造で主に使用されるビットには、以下のようなものがあります。
ビットの種類 | 主な用途 | 特徴 |
---|---|---|
ストレートビット | トラスロッドの溝掘り、 ナット溝の加工など | 最も基本的なビット。 指定した幅と深さで直線的に削ります。 |
トップベアリング ビット | テンプレートを使った ザグリ加工 (ボディ表面から) | 刃の先端側(軸側)にベアリングが付いています。 テンプレートをボディ表面に貼り付け、 ベアリングをテンプレートに沿わせて加工します。 |
フラッシュトリム ビット | テンプレートを使った ザグリ加工、 ボディ外周の成形 | 刃の根元側にベアリングが付いています。 テンプレートを作業台とボディの間に挟んで 加工する場合などに使用します。 |
ボーズ面ビット (丸面ビット) | ボディエッジの R加工 (角を丸める) | ビットのR(半径)によって、 様々な丸みをつけることができます。 ストラトキャスターは約12R、 テレキャスターは約3Rなど、 モデルによって使い分けます。 |
特にテンプレートを使った加工では、ベアリング付きのビットが不可欠です。ベアリングがテンプレートの縁をなぞることで、刃が正確に案内され、設計通りの形状を削り出すことができます。最初は基本的なストレートビットと、テンプレート加工用のトップベアリングビットを揃えることから始めると良いでしょう。
ミニルーターを使った細かい部分の加工
トリマーが広い面積を効率よく削るための工具だとすれば、ミニルーター(リューター)は細部の仕上げや微調整に特化した工具と言えます。ペンを持つような感覚で扱える小型の回転工具で、その取り回しの良さが最大の武器です。
例えば、トリマーでは加工しきれないザグリの鋭角なコーナー部分の整形や、配線が通るための細い溝の追加、作業中に発生した小さなバリの除去などに威力を発揮します。

先端に取り付けるビットの種類も豊富で、研削用の砥石ビットや、切削用のハイスカッター、研磨用のフェルトバフなど、用途に応じて付け替えることで、一台で削る・磨く・切るといった多様な作業をこなせます。電動ドリル用の回転ヤスリも同様の用途に使えますが、ミニルーターの方がより繊細なコントロールが可能です。
トリマーでの加工後、「あとほんの少しだけここを削りたい…」という場面は意外と多いものです。そんな時、ミニルーターがあれば、ギター本体を傷つけるリスクを抑えながら、安全かつ正確に微調整ができますよ。
作業の安全を確保するための注意点
これまでにも触れてきましたが、ギターのザグリ加工、特に電動工具を使用する作業において、安全対策はどれだけ強調してもしすぎることはありません。楽しいはずのDIYが、一瞬の油断で辛い思い出にならないよう、以下の点を必ず守ってください。

安全作業のための絶対ルール
- 保護具の着用
木くずや金属片から目を守るための保護メガネ、粉塵を吸い込まないための防塵マスクは必ず着用してください。 - 適切な服装
袖口が広がった服や、紐などがぶら下がっている服装は、回転する工具に巻き込まれる危険があるため避けましょう。 - 作業環境の整備
作業スペースは常に整理整頓し、十分な明るさを確保してください。
また、木くずが大量に発生するため、こまめな清掃と換気を心がけましょう。 - 工具の正しい使用とメンテナンス
使用する工具の取扱説明書をよく読み、正しい使い方を理解してください。
切れ味の悪い刃物はかえって危険なため、ビットなどは定期的にメンテナンスまたは交換しましょう。 - 部材の確実な固定
作業対象であるギター本体やテンプレートは、クランプなどを使って作業台にしっかりと固定し、作業中に絶対に動かない状態にしてください。 - 無理な作業はしない
疲れている時や集中力が続かない時は、無理に作業を続行せず、休憩を挟むか、日を改めましょう。
これらの準備と心構えが、安全で質の高いDIY作業の基礎となります。
【まとめ】電動ドリルでギターのザグリ加工をする要点
この記事では、電動ドリルを中心に、DIYでギターのザグリ加工を行うための方法と知識を解説してきました。最後に、今回の内容の要点をリストで振り返ってみましょう。
- ギターのザグリ加工はピックアップ交換などのパーツ換装が主な目的
- DIYで挑戦する際は安全確保とギターの保護が最優先
- 作業前には端材で十分に練習することが失敗を防ぐカギ
- 電動ドリルで下穴を多数開けておくと後の手作業が楽になる
- フォスナービットを使うと穴の底を平らに加工できる
- ノミを使う際は木目に沿って少しずつ削るのが基本
- 彫刻刀や回転ヤスリで細部を丁寧に仕上げる
- 既存のザグリを広げる際は現物合わせで慎重に進める
- プロ品質の綺麗な仕上がりにはトリマーが非常に有効
- トリマーにはテンプレートとベアリング付きビットを組み合わせる
- ギター用トリマービットは用途に合わせて適切に選ぶ
- ミニルーターは細部の微調整や仕上げに便利な工具
- 作業中は保護メガネやマスクなどの保護具を必ず着用する
- 工具の正しい知識を持ち、無理のない作業を心がける
- 焦らず慎重に作業を進めることがDIY成功への一番の近道