愛用のギターを自分だけの色に染め上げたい、あるいはボロボロになったヴィンテージギターを新品のような輝きで蘇らせたい。そう思って缶スプレーを手に取ったものの、「なんとなく安っぽい仕上がりになってしまった」「表面がザラザラで艶が出ない」といった経験はありませんか?
自分の理想とする深い色味や質感、そして何よりプロの仕事のような「濡れたような鏡面仕上げ」を目指すなら、やはりスプレーガンの導入は避けて通れません。しかし、いざ機材を選ぼうとすると、ノズル口径、カップの方式、コンプレッサーの馬力など、専門用語の壁にぶつかってしまうことが多いものです。
この記事では、DIYでのギター塗装に特化した機材の選び方から、絶対に失敗しないための環境構築、そして美しい塗膜を作るための具体的なハンドリング技術まで、私自身の試行錯誤の経験を踏まえて徹底的に解説していきます。
- ギター塗装に最適なおすすめのスプレーガン機種と具体的な選び方
- 失敗しないためのコンプレッサーのスペックと「水分除去」の重要性
- 美しい仕上がりを実現するための塗料の希釈率と塗装工程の全貌
- よくある塗装トラブル(白化・ゆず肌)の原因とプロ並みのリカバリー技術
本記事の内容
ギター塗装に最適なスプレーガンの選び方
ギター製作やリフィニッシュ(再塗装)において、スプレーガン選びは仕上がりを左右する最初の、そして最も重要なステップです。「弘法筆を選ばず」という言葉がありますが、ミクロン単位の塗膜制御が求められる塗装の世界において、道具の性能差は技術でカバーしきれないほど大きな壁となります。
特に私たちのような個人の製作環境では、プロの工場のような強力な大型コンプレッサーや完璧な空調設備を用意することは困難です。限られた電圧(100V)とスペースの中で、いかにしてプロ並みの塗膜を作るか。それはまさにエンジニアリングの問題です。ここでは、なぜ特定のモデルが推奨されるのか、その技術的な理由と選び方のポイントを深掘りして解説します。

初心者におすすめの機種とモデル
初めてスプレーガンを手に取る方にとって、数万円もする高価なプロ用機材はハードルが高いと感じるかもしれません。しかし、声を大にしてお伝えしたいのは、「塗装道具こそ、最初から信頼できるメーカー品を買うべき」ということです。
ネット通販で見かける数千円の海外製ノーブランド品(コピー品)は、個体差が激しく、パターンの調整が効かなかったり、ニードルの精度が悪く塗料漏れを起こしたりするリスクがあります。さらに、使用後の洗浄でパッキンが溶けてしまうなどのトラブルも多発します。塗装は失敗した時のリカバリー(剥がしてやり直し)にかかる労力が凄まじいため、道具の不具合で失敗することは絶対に避けるべきです。
おすすめできるのは、日本の塗装現場でスタンダードとなっている以下のモデルです。
1. アネスト岩田 LPH-50シリーズ(推奨No.1)
ギター塗装、特にDIYレベルにおいては「最強の選択肢」です。重量はわずか220gと超軽量で、長時間の作業でも手首が疲れません。そして何より後述する「低圧・低空気消費量」という特性が、家庭用コンプレッサー環境に完璧にマッチします。サンバーストのような繊細なボカシ作業から、ネックやヘッドの精密塗装まで万能にこなします。まずはこの一本から始めるのが間違いありません。
2. アネスト岩田 kiwamiシリーズ
自動車補修用として開発された「極み」シリーズです。こちらはLPH-50よりもパターン幅(塗装できる幅)が広く、ボディのトップコート(クリアー塗装)を一気に仕上げたい場合に威力を発揮します。プロ並みの「濡れたような艶」を目指すならこちらですが、コンプレッサーには相応のパワー(空気量)が求められます。
3. 明治機械製作所 F-ZERO Type B
厚膜光沢(Thick Film High Gloss)をコンセプトにしたモデルです。塗料を「ドバっと」出して、表面張力で平滑にする(レベリングさせる)能力に長けています。深い艶を出したい場合に有利で、カップが自立する設計も地味ながら作業中のストレスを大幅に減らしてくれます。
なぜ国産メーカーなのか?
アネスト岩田や明治機械製作所などの国産メーカーを選ぶ最大のメリットは、「補修部品の供給」にあります。スプレーガンは使用後に分解清掃を行いますが、その際にパッキンを傷つけたり、小さなネジを紛失したりすることがあります。国産メーカーなら、ホームセンターや塗料店でネジ1本から取り寄せが可能であり、メンテナンスしながら長く使い続けることができます。
コンプレッサーに必要なスペック
スプレーガンを使う上で、切っても切り離せないのがエアコンプレッサーです。実は、スプレーガン選びで失敗する人の9割は、この「コンプレッサーとのマッチング」を見落としています。
基本原則として、「コンプレッサーが吐き出す空気量」が「スプレーガンが消費する空気量」を上回っていなければ、連続して塗装することはできません。

吐出空気量とスプレーガンの消費量
| 項目 | 1馬力 (0.75kW) クラス | 2馬力 (1.5kW) クラス | 備考 |
|---|---|---|---|
| 吐出空気量 | 60 〜 80 L/min | 120 〜 150 L/min | 0.6MPa時 |
| 推奨スプレーガン | LPH-50 (50 L/min) | W-101 / kiwami (150 L/min〜) | |
| 連続運転 | 小型ガンなら可能 | 一般的なガンはギリギリ | |
| 電源 | 家庭用100VでOK | 100V / 200V | 2馬力はブレーカー 落ちに注意 |
一般的な家庭用100Vコンプレッサー(1馬力前後)の吐出量は、およそ60L/min〜80L/min程度です。対して、一般的な自動車補修用のスプレーガン(W-101クラス)は、毎分150L〜200Lもの空気を消費します。
つまり、普通のコンプレッサーで普通のガンを使うと、トリガーを引いて数秒でタンクの空気が空になり、圧力が下がって塗料が霧にならなくなってしまいます。これが、塗装面がザラザラになる「ドライスプレー」や「ゆず肌」の最大の原因です。
タンク容量は「30L以上」を目安に
もし、1馬力のコンプレッサーで一般的なガン(W-101など)を使いたい場合は、タンクの中に溜めた空気を使って「休み休み」吹くしかありません。そのためには、最低でも30L、できれば39Lクラスの大きなタンクを持つコンプレッサーが必要です。タンク容量が大きければ、それがバッファとなり、一時的にコンプレッサーの能力を超えたエア供給が可能になります。
絶対に必要な「水分除去」対策
コンプレッサーは空気を圧縮する際、必ず「水(ドレン)」を発生させます。この水分がホースを通って塗料に混ざると、塗装面に水膨れができたり、白く濁ったりします。これを防ぐために、以下の3段構えで対策することをおすすめします。
- エアフィルター(レギュレーター付):
コンプレッサー出口で大まかな水を取る。 - 簡易ドライヤー:
ホースの途中で湿気を取る。 - 手元フィルター:
ガンの直前で最後の水分をカットする。
特に手元フィルターは安価で効果絶大なので、必ず装着してください。
小型ガンのLPH-50が優秀な訳
前述のコンプレッサー事情を踏まえると、なぜ私がアネスト岩田のLPH-50(特にLPH-50-102G)を強く推すのか、その理由が明確になります。それは、LPH-50がLVLP(Low Volume Low Pressure:低空気量低圧)という方式を採用しているからです。
家庭用コンプレッサーでの連続運転が可能
LPH-50の空気消費量は、わずか50L/min程度。これは、家庭用の小型1馬力コンプレッサーの吐出量(約60L/min)を下回っています。つまり、理論上はコンプレッサーが回りっぱなしでもエア不足にならず、無限に吹き続けることができるのです。これは、落ち着いて作業を進めたい初心者にとって計り知れないメリットです。
サイドカップが生む「取り回し」の良さ
LPH-50のもう一つの大きなメリットは、塗料カップが横に付いている「サイドカップ式」である点です。カップの角度を自由に変えられるため、ガンを真下に向けても、あるいは真上に向けても、カップ内の塗料を吸い上げることができます。
ギターの塗装では、カッタウェイの内側やネックの裏、ヘッドの側面など、複雑な角度から吹き付ける必要があります。重力式のセンターカップ(真上にカップがあるタイプ)では、ガンを傾けた際にカップがボディに当たったり、塗料がこぼれたりする恐れがありますが、LPH-50ならその心配がありません。
重力式などガン種類の基礎知識
スプレーガンには、塗料の供給方式によって大きく3つの種類があります。それぞれの特徴を理解し、なぜギター塗装に「重力式」が選ばれるのかを知っておきましょう。
| 方式 | 構造と特徴 | ギター塗装への適性 |
|---|---|---|
| 重力式 (Gravity Feed) | カップが上にあり、自重で塗料を供給。 少量の塗料でも最後まで使い切れる。 洗浄が楽。 | ◎ 最適 色替えが多く、微調整が必要な ギター塗装にベスト。 ◎ 最適 色替えが多く、微調整が必要な ギター塗装にベスト。 |
| 吸上式 (Suction Feed) | カップが下にあり、吸い上げる。 大容量だが、塗料が多く残る。 傾けると空気を吸う。 | △ 不向き 広い壁や車の全塗装向き。 小回りが利かない。 |
| 圧送式 (Pressure Feed) | 別体のタンクからホースで圧送する。 大量連続塗装用。 設備が大掛かりになる。 別体のタンクからホースで圧送する。 大量連続塗装用。 設備が大掛かりになる。 | × 不向き 工場ライン用。 洗浄が大変でDIYには過剰。 |

吸上式はカップが下にあるため、テーブルに置いた時の安定性は良いのですが、構造上どうしてもカップの底に塗料が残りやすくなります。高価なギター用塗料(ニトロセルロースラッカーなど)を無駄なく使い切るためにも、重力式が経済的かつ実用的です。
最適なノズル口径の選び方
ノズルの口径(穴の大きさ)は、一度に出る塗料の量と、対応できる塗料の粘度(ドロドロ具合)を決定します。ギター塗装では、主に使用する塗料の種類(シーラー、ラッカー、ポリウレタン)と、塗装の目的(着色か、コーティングか)によって使い分けます。
φ0.8mm 〜 φ1.0mm(精密塗装・小物用)
LPH-50などがこのクラスです。霧が細かく、吐出量が少ないため、コントロール性に優れています。
- 用途:
サンバーストのグラデーション塗装、ヘッドストックの塗装、
ネック裏、タッチアップ(部分補修)。 - メリット:
「うっかり厚塗りして垂れてしまった」という失敗を防ぎやすいです。
特にボカシ塗装の際、塗料の粒が小さいため、色が綺麗に馴染みます。
φ1.3mm 〜 φ1.4mm(標準・仕上げ用)
一般的な自動車補修用ガン(kiwamiシリーズなど)の標準サイズです。
- 用途:
ボディ全体のサンディングシーラー、カラー塗装(ソリッド)、トップコート(クリアー)。 - メリット:
十分な量の塗料が出るため、広い面を一気に濡らすことができ、平滑な塗膜(レベリング)を作りやすいです。
予算が許すなら、クリアー用にφ1.3mm、サンバースト用にφ0.8mm(LPH-50)の2丁を持つのが理想ですが、まずはLPH-50(φ1.0mm)を一本導入し、クリアー塗装の際は少し時間をかけて塗り重ねる方法をとるのが、DIY・小規模工房のスタートアップとして最も賢い選択でしょう。
アネスト岩田製品が選ばれる理由
記事の中で繰り返し「アネスト岩田」の名前を出していますが、これは単なるブランド志向ではありません。塗装機器の世界において、微粒化(Atomization)の技術は、仕上がりの品質に直結する科学そのものです。
安価なスプレーガンは、塗料の粒子が不均一で粗くなりがちです。粒子が粗いと、塗装面に着弾した際に綺麗に広がらず、表面がデコボコになります。これを平らにするために、塗装後のサンディング(研磨)作業に膨大な時間を費やすことになります。
対して、アネスト岩田の「Vスリットノズル」などを採用したモデルは、低い圧力でも塗料を極めて微細な霧にすることができます。霧が細かければ、塗った瞬間から表面が滑らかになり、最終的な研磨の手間を大幅に減らすことができるのです。プロが「高いガンは元が取れる」と言うのは、この作業時間の短縮効果があるからです。
(出典:アネスト岩田株式会社 公式サイト)
スプレーガンで行うギター塗装の実践工程
道具の選定が終われば、いよいよ実践です。ここでは、ギター塗装の中でも最もポピュラーであり、かつ難易度が高いとされる「ニトロセルロースラッカー」を使用したリフィニッシュ(再塗装)を想定し、プロの工程をDIY向けに噛み砕いて解説します。

失敗しない塗装のやり方とコツ
多くの人が「どう塗るか(吹き方)」ばかりを気にしますが、塗装のプロは口を揃えて「下地が8割」と言います。どれだけ高価なガンを使って、最高級のクリアーを吹いたとしても、その下の木地が凸凹であれば、鏡のような光沢は絶対に生まれません。
1. 素地研磨(Wood Preparation)
塗装を剥がした木部は、#150 → #240 → #320 → #400 の順にサンドペーパーで磨き上げます。重要なのは「番手を飛ばさない」こと。粗いペーパーの傷を、次の番手で完全に消していくイメージです。ここで手を抜くと、塗装後に「ペーパー目」と呼ばれる傷跡がくっきりと浮き出てきます。

当て木(Sanding Block)を使おう
指で直接ペーパーを持って磨くと、柔らかい木部だけが削れてしまい、表面が波打ってしまいます。必ず硬いゴムや木製の「当て木」にペーパーを巻き付けて、面を意識して研磨してください。
2. 目止め(Grain Filling)
ここがギター塗装特有の工程です。マホガニー、アッシュ、ローズウッドなどの「導管」が太い木材(環孔材・散孔材)の場合、そのまま塗装すると導管部分が塗料を吸い込み、表面に無数の小さな穴(ピンホールや凹み)ができてしまいます。 これを防ぐために、「砥の粉(とのこ)」や専用の「グレインフィラー」を木目に擦り込み、導管を埋めます。メイプルやアルダーの場合は省略することもありますが、完璧な鏡面を目指すなら実施して損はありません。
3. シーラー塗装(Sealing)
木材と塗料の接着剤となる「ウッドシーラー」を塗り、その上に肉持ちを良くするための「サンディングシーラー」を3〜4回吹き重ねます。乾燥後、#400〜#600のペーパーで研磨し、完全に平らな面を作ります。この時点で、光にかざして歪みがない状態にしておくことが成功の絶対条件です。
ラッカー塗料の希釈と調合技術
スプレーガンで綺麗に塗るための最大のコツは、「塗料の粘度調整(希釈)」にあります。塗料が濃すぎると(硬いと)、霧にならずにボテっと付着し、酷いゆず肌になります。逆に薄すぎると、すぐに垂れてしまいます。
低圧ガン特有の希釈レシピ
缶入りのラッカー塗料には「そのままでも塗れます」と書いてあることがありますが、スプレーガン、特にLPH-50のような低圧ガンで吹く場合は、さらにシンナーで希釈する必要があります。低圧ガンは空気が弱いため、塗料をサラサラにしてあげないと綺麗に飛ばないのです。
推奨の希釈比率(あくまで目安)
一般的には「塗料 1 : シンナー 1」が基本とされますが、「塗料 4 : シンナー 6」、あるいは「3 : 7」くらいまで薄めることをおすすめします。
シャバシャバに薄めた塗料を、薄く何度も塗り重ねるほうが、結果的に表面が平滑になり、乾燥も早くなります。プロは粘度カップ(Iwataカップなど)で秒数を計測しますが、DIYでは「牛乳より少しトロみがある程度」を目安に、テスト吹きをしながら調整してみてください。

白化(ブラッシング)対策のリターダー
梅雨時や夏場など、湿度が60%を超える環境でラッカーを吹くと、気化熱で表面温度が下がり、空気中の水分を取り込んで白く濁る「白化(カブリ)」が発生します。これを防ぐために、乾燥を遅らせる添加剤「リターダー(ノンブラッシュ)」を5〜10%ほど混ぜてください。乾燥時間が伸びることで、取り込んだ水分が逃げる時間を稼ぐことができます。
鏡面仕上げまでの具体的工程
いよいよ仕上げのトップコート(クリアー)です。ラッカー塗装の場合、乾燥して溶剤が揮発すると、塗膜の体積が減る「痩せ」が発生します。この痩せを計算に入れて、十分な厚みを確保する必要があります。
塗り重ねのスケジュール例
- 1日目:
3回塗装(各インターバル1時間)。指触乾燥を確認して終了。 - 2日目:
軽くサンディング(#600程度)してゴミやホコリを除去。さらに3回塗装。 - 3日目以降:
同様に繰り返し、合計で10回〜15回程度塗り重ねます。
忍耐の乾燥期間(シーズニング)
塗り終わったら、ここからが最も苦しい「待ち」の時間です。ラッカーは指で触って乾いていても、内部にはまだ溶剤が残っています。この状態で磨き始めると、摩擦熱で塗料が溶けたり、数ヶ月後に塗膜が収縮して木目が浮き出てきたりします(目痩せ)。
最低でも2週間、理想的には4週間〜6週間、風通しの良い日陰で吊るして乾燥させてください。この期間が、ヴィンテージギターのような硬質で乾いたトーンを作ります。
最終仕上げ:水研ぎとバフ掛け
十分に乾燥したら、塗膜を平滑にし、鏡面にするための研磨作業です。
- コンパウンド(バフ掛け):
ペーパー傷を消して光沢を出します。
粗目 → 細目 → 極細目の順に、コンパウンドを使って磨き上げます。
電動ポリッシャーがあると便利ですが、手磨きでも時間をかければピカピカになります。 - 水研ぎ:
#800 → #1000 → #1500 → #2000 の順に、水をつけながら耐水ペーパーで磨きます。
この時も必ず「当て木」を使い、塗装面の凹凸(ゆず肌)が完全に消えて、マットな平面になるまで磨きます。

塗料の調整と吹き付けテクニック
実際にガンを握って吹き付ける際の具体的なテクニックを紹介します。頭で理解していても体で覚える必要がありますが、以下の数値を基準にスタートしてください。
ガンの設定(LPH-50の場合)
- 空気圧:
手元圧力計で0.08MPa 〜 0.1MPa程度。
強すぎると跳ね返りが多くなります。 - 吐出量調整ツマミ:
全閉状態から1.5回転 〜 2回転戻し。 - パターン調整ツマミ:
対象物の幅に合わせて調整(全開だと広すぎることがあるので、少し絞り気味で)。

運用のコツ:ウェットコート(Wet Coat)
ザラザラとした艶消し状態(ドライスプレー)にならないよう、塗面が濡れて艶が出るギリギリの状態を狙って吹きます。これを「ウェットコート」と呼びます。
- 距離:
対象物から15cm 〜 20cm程度。遠すぎると粉になります。 - 速度:
一定の速度で平行移動します。手首を返さず、体全体を使ってガンを水平に動かします。 - 重ね合わせ:
パターンの半分(50%)を重ねながら進んでいきます。
最後の仕上げ吹きでは、シンナーの比率を少し上げ(リターダーを入れるとなお良し)、垂れる寸前まで濡らすように吹くことで、表面張力が働き、驚くほど平滑な鏡面が得られます。ただし、一瞬でも止めると「液垂れ」の原因になるので、集中力が必要です。
トラブルシューティング:液垂れした場合
もし塗料が垂れてしまっても、慌てて拭き取ってはいけません。拭き取ると汚くなり、修復不能になります。垂れたまま完全に乾燥させ(数日放置)、カッターの刃やスクレーパーで垂れた部分だけを削ぎ落とし、サンディングして平らにすればリカバリー可能です。
ギター塗装のスプレーガン運用【まとめ】
ギター塗装におけるスプレーガンの運用は、適切な機材選びと丁寧な工程の積み重ねが全てです。LPH-50のような扱いやすいガンを選び、オイルレスコンプレッサーでクリーンなエアを供給し、焦らず薄く塗り重ねていくこと。そして何より、十分な乾燥時間を待つ忍耐力があれば、DIYでもプロ顔負けのフィニッシュは十分に実現可能です。
最初は失敗するかもしれません。垂れてしまったり、ゴミ噛みしたりすることもあるでしょう。しかし、ラッカー塗装の良いところは「失敗しても、また削って上から塗れば一体化する」という点です。木と向き合い、塗料の匂いを感じながら(換気は忘れずに!)、じっくりと自分の音を作り上げていく時間は、何にも代えがたい贅沢な趣味の時間となるはずです。まずは小さな端材などで練習して、感覚を掴んでから本番に挑んでみてください。