「ガレージに、自動車のオイル交換で余った4サイクルエンジンオイル(10W-30など)がある。見た目の粘度も似ているし、チェーンソーのチェーンオイルとして代用できないだろうか?」
あるいは、
「マキタ等の4サイクルエンジン(MM4)搭載機を手に入れたものの、『メンテナンスやオイル量が非常にシビアだ』と聞いて不安を感じている。壊さないための正しい知識が知りたい」
そういった疑問や不安をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
専用のチェーンオイルは消耗品にしては意外と高価ですし、手元にある余り物を活用して節約したいと考えるのは、DIY好きなら当然の心理です。
しかし、実はその「オイルの代用」という行為には、一見しただけでは分からない深刻なリスクと、機械工学的な「絶対にしてはいけない理由」が潜んでいます。
安易な代用が原因で、数万円もする大切な愛機を一瞬にして壊してしまい、結果的に高くつく修理代を払うことになった……そんなケースは後を絶ちません。
それは単なる機械の故障だけでなく、最悪の場合、作業者の安全をも脅かす事態になりかねないのです。
そこでこの記事では、単に「やってはダメ」と禁止するだけではなく、トライボロジー(潤滑工学)の視点から「なぜダメなのか」を徹底的に解説します。
あわせて、実際にマキタ等の4サイクルエンジン搭載機材を運用している方へ向けて、プロ直伝の「絶対に壊さないメンテナンス術」も余すことなくお伝えします。
- 4サイクルエンジンオイルをチェーンオイルとして代用してはいけない物理的・化学的な理由
- 粘度の数値(10W-30など)が同じでも決定的に異なる「粘着性」という重要な性質
- マキタ製4サイクルエンジン(MM4)搭載機材の正しいオイル交換手順と、絶対に守るべき規定量
- 混合燃料の手間やコスト、将来的なメンテナンス性を考慮した賢い機材選びの判断基準
本記事の内容
4サイクルエンジンオイルをチェーンソーに使う危険性
まず最初に、多くのユーザーが抱く「余ったエンジンオイルをチェーンオイルに使いたい」という疑問について、明確な結論から申し上げます。たとえそれが最高級の化学合成油であったとしても、自動車用やバイク用、発電機用の4サイクルエンジンオイルをチェーンソーの切断潤滑用(チェーンオイル)として使用するのは、絶対に避けるべきです。
「昔の人は廃油を使っていた」という話を年配の方から聞くことがありますが、それはエンジンの回転数が低く、ガイドバーの精度も今ほど高くなかった時代の話です。現代の高速回転する高性能チェーンソーにおいては、百害あって一利なしの自殺行為に等しいのです。なぜそれほどまでに危険なのか、その理由を詳細に解説していきましょう。

エンジンオイルとチェーンオイルの違い
一見すると、どちらも琥珀色の液体で、指で触ればヌルヌルしており、金属の摩擦を減らすという点では同じように思えます。しかし、4サイクルエンジンオイルとチェーンソー専用オイルでは、開発段階で求められている「役割」と「性能」がまるで正反対なのです。これは、マラソン選手と力士くらい違う競技特性を持っています。
密閉循環(流体潤滑)vs 開放全損(境界潤滑)
まず、使用される環境が根本的に異なります。
エンジンの内部(4サイクルオイルの世界):
エンジンの内部は密閉されています。オイルはオイルパンからポンプで汲み上げられ、クランクシャフトやピストンを潤滑した後、またオイルパンに戻ります。
つまり「循環」するのです。
ここでは、金属同士が直接触れ合わないように油膜で浮かせる「流体潤滑」が主に行われます。
そのため、エンジンオイルにはサラサラとした流動性と、熱を運ぶ冷却性能、そして燃焼で生じたスス(カーボン)や汚れを取り込んで分散させる「清浄分散性」が強く求められます。
チェーンソーのガイドバー(チェーンオイルの世界):
一方、チェーンソーのガイドバーとチェーンは、完全に外気にさらされた「開放」された空間です。
ここでの潤滑は「使い捨て(全損式)」です。
一度吐出されたオイルは二度とタンクには戻りません。
ここでは、金属同士が高い圧力で擦れ合う「境界潤滑」という過酷な状態になります。
最も重要なのは、高速で動く金属の隙間に物理的に留まり続ける「付着性」です。
| 比較項目 | 4サイクルエンジンオイル (10W-30等) | チェーンソー専用オイル (VG100等) |
|---|---|---|
| 主な役割 | 内部循環、冷却、清浄分散、防錆 | 付着潤滑、摩耗防止、冷却、木ヤニ防止 |
| 粘着性 (タッキネス) | なし / 非常に低い (抵抗になるため不要) | 非常に高い (粘着剤により糸を引く) |
| 遠心力耐性 | 低い (回転体から剥離しやすい) | 高い (高速回転でもチェーンに絡みつく) |
| 極圧性能 | 油膜切れ防止剤が含まれる | 高荷重でのカジリ防止に特化 |

添加剤の決定的な違い:タッキネス剤
チェーンオイルには、ポリブテンやポリイソブチレンといった高分子化合物、通称「タッキネス剤(粘着剤)」が大量に配合されています。指で触ると納豆のように糸を引くのはこのためです。これに対し、エンジンオイルにはこのようなネバネバした成分は入っていません。むしろ、エンジンの回転抵抗になるため、サラサラであることが正義とされるのです。
代用時の故障リスクと粘着性
では、実際にチェーンソーに4サイクルエンジンオイルを入れると、物理的に何が起こり、どのような故障を招くのか。シミュレーションしてみましょう。
恐怖の現象:Fling-off(飛散)
チェーンソーのチェーンは、フルスロットル時には秒速20メートル以上(時速70km以上)の猛スピードで回転しています。特にガイドバーの先端(ノーズスプロケット)部分では、チェーンが急激にUターンするため、強烈な遠心力(G)が発生します。
専用のチェーンオイルの場合、配合されたタッキネス剤の力でオイルがチェーンに「しがみつき」、遠心力に耐えてバーの裏側(下側のレール)まで運ばれます。しかし、粘着性のない4サイクルエンジンオイルを入れるとどうなるか。
クラッチドラムにあるスプロケットからオイルが出た瞬間、遠心力によってすべて外へ吹き飛ばされてしまいます。これを専門用語で「Fling-off」と呼びます。作業者の足元や周囲の木には大量のオイルが付着しますが、肝心のガイドバーにはほとんど残っていないという状態になります。
ガイドバーとチェーンの「ドライ運転」による破壊
オイルが供給されないまま高速回転すると、ガイドバーのレールとチェーンのドライブリンクは、金属同士が直接こすれ合う「ドライ運転」状態になります。
代用した場合に発生する具体的ダメージ
- 焼き付き(ブルーイング):
摩擦熱でガイドバーのレール温度が数百度に達し、金属が青紫色に変色します。
これは鋼材の焼き入れが戻ってしまい、硬度が失われた証拠です。
こうなると摩耗が一気に加速します。 - レールの偏摩耗とバリの発生:
レールがいびつに削れ、カミソリのような鋭い「バリ」が発生します。
これが抵抗となり、パワーロスや燃費悪化を招きます。 - チェーンのストレッチ(伸び):
チェーンの関節部分(リベット)が熱と摩耗ですり減り、あっという間にチェーンがダルダルに伸びます。
調整範囲を超えて伸びきってしまえば、まだ刃が残っていても廃棄するしかありません。 - 破断事故のリスク:
最悪の場合、過熱して脆くなったチェーンが作業中に「バチン!」と切れることがあります。
切れたチェーンが作業者の手や顔に飛んでくる危険性を想像してください。

「数百円のオイル代を節約しようとした結果、1万円以上するガイドバーとチェーンを交換することになった」という失敗談は、決して他人事ではありません。トータルコストで考えれば、代用はあまりにもリスクが高すぎるのです。
4サイクルチェーンソー製品の現状
なかには、「オイルの代用」ではなく、「そもそも4サイクルエンジンのチェーンソーが欲しい」と考えている方もいるでしょう。「混合ガソリンを作るのが面倒」「排気ガスが臭い」という悩みから解放されたいという願いはもっともです。
しかし、残念ながら現状の市場において、一般的なリアハンドル型(山林作業用)の4サイクルチェーンソーはほぼ存在しません。なぜ技術大国である日本やドイツのメーカーが作らないのか、そこには明確なエンジニアリング上の壁があります。
重量という物理的な壁
4サイクルエンジンは、吸気・排気のバルブを開閉するためのカムシャフト、タイミングベルト(またはギア)、ロッカーアーム、バルブスプリングといった多数の可動部品が必要です。これらはどうしてもエンジンを重く、大きくしてしまいます。
林業や造園業において、チェーンソーは手で持って振り回す道具です。不安定な足場で一日中作業するプロにとって、100グラムの重量増でも大きな疲労に繋がります。2サイクルエンジンは部品点数が少なく、圧倒的に軽量でハイパワー(パワーウェイトレシオが高い)であるため、チェーンソーの世界では今なお2サイクルが覇権を握っているのです。
全方位運転の難しさ
一般的な4サイクルエンジン(自動車など)は、エンジンの底にあるオイルパンにオイルを溜めています。もしこれを逆さまにしたらどうなるでしょうか?オイルポンプが空気を吸って潤滑できなくなったり、ブリーザーパイプからオイルが燃焼室に流れ込んで白煙を吹いたりします。
チェーンソーは、木の枝を払うために横に向けたり、逆さまに近い状態で使ったりします。従来の4サイクル構造では、この「全方位運転」に対応することが極めて困難だったのです。

現在「4サイクル」と銘打たれている製品の多くは、後述するマキタのポールソー(高枝切り)やエンジンカッター、あるいはホンダの刈払機など、特定の姿勢で使うことが多い、または重量増がある程度許容される特殊機材に限られています。
コスパの良い専用オイルの選び方
「専用オイルが良いのは理屈では分かった。でも、メーカー純正品は1リットルで2,000円もして高すぎる…毎日使うわけじゃないのに」
その気持ち、本当によく分かります。趣味の薪作りや庭木の剪定で使う程度なら、ランニングコストは抑えたいですよね。そこで、私が普段から実践している「賢いオイル選び」をご紹介します。
汎用メーカーの「ISO VG100」を選べ!
ホームセンターやネット通販では、「AZ(エーゼット)」や「ガレージ・ゼロ」といった化学メーカーが販売している汎用のチェーンソーオイルが入手可能です。これらは、4リットル缶で2,000円〜3,000円程度(リッターあたり500円〜750円)と、純正品の半額以下で販売されています。
「安かろう悪かろうでは?」と心配されるかもしれませんが、安心してください。これらの製品もしっかりとチェーンソー用に設計されており、重要な「粘着剤」が配合されています。JIS規格などに基づく粘度グレード「ISO VG100(またはVG110)」と表記されているものを選べば、オールシーズン問題なく使用できます。
ワンポイント:季節による使い分け
プロの現場では、気温によって粘度を使い分けます。
- 夏場(VG110〜):
気温が高いとオイルがサラサラになりすぎるため、少し硬めのオイルを使って飛散を防ぎます。 - 冬場(VG100以下):
気温が低いとオイルが水飴のように固くなるため、柔らかめのオイルを使ってポンプの負荷を減らします。
一般ユーザーであれば、中間の「オールシーズン用」を選んでおけば間違いありません。

環境への配慮:生分解性オイルの選択
山林や畑、河川の近くでチェーンソーを使う場合、飛び散った鉱物油は土壌や水質を汚染します。環境負荷を気にするなら、植物油をベースにした「生分解性チェーンオイル」を選びましょう。微生物によって分解されるため、自然に優しいのが特徴です。
ただし、生分解性オイルは長期間放置すると酸化して固まり、オイルポンプを詰まらせる原因になります。使用後はタンクを空にするか、半年以内に使い切る管理が必要です。
バッテリー式という選択肢
もしあなたが、「混合ガソリンの管理が面倒」「キャブレターの調整ができない」「エンジンの始動が苦手」という理由で4サイクル技術に興味を持ったのであれば、現代にはもっとスマートで画期的な解決策があります。
それが、「バッテリーチェーンソー」への完全移行です。
ひと昔前までは「バッテリーはおもちゃ」「パワー不足ですぐ止まる」と言われていましたが、今は完全に時代が変わりました。マキタの40Vmaxシリーズや、STIHL、Husqvarnaのプロ用バッテリー機は、40ccクラスのエンジン式に匹敵、あるいは凌駕する瞬発力とトルクを持っています。
バッテリー式のメリットは4サイクルの理想そのもの
- 燃料不要:
ガソリンを買いに行く手間も、オイルと混ぜる手間もゼロ。もちろん劣化もしません。 - メンテナンスフリー:
キャブレター詰まり、プラグ被り、エアクリーナーの油汚れ…これら全ての悩みから解放されます。 - 静音・低振動:
早朝の住宅街でも気兼ねなく使えますし、振動が少ないので腕が疲れません。 - 始動性:
リコイルスターターを何度も引く必要はありません。ボタン一つで即起動します。

4サイクルエンジンチェーンソーの根本的な悩み(管理の手間)を解消してくれるのは、実は4サイクルエンジンではなく、バッテリー技術の進化なのです。もし買い替えを検討されているなら、私は迷わずバッテリー機をおすすめします。
4サイクルエンジンオイル仕様のチェーンソー整備術
ここからは、記事のもう一つのターゲットである「実際にマキタなどの4サイクルエンジン搭載機材を持っている方」に向けて、具体的かつ実践的なメンテナンス方法を解説します。
対象となるのは、マキタの「MM4」エンジンを搭載したポールソー(高枝切りチェーンソー EY2650H25Hなど)や、パワーカッター(EK7651Hなど)、あるいは刈払機です。これらは正真正銘の4サイクルエンジンであり、エンジンオイルの管理が寿命を左右します。2サイクルとは全く勝手が違うので注意が必要です。
マキタは現在、エンジン式のポールソーやパワーカッターの生産は行っていません。充電式に移行しています。

マキタ製4サイクル機材の特徴
マキタが開発した「MM4(マキタ・ミニ・4ストローク)」エンジンは、世界の小型エンジン史に残るような革新的な技術の塊です。このエンジンの凄さを知れば、きっとメンテナンスにも力が入るはずです。
特許技術:加圧循環・ミスト潤滑システム
先ほど「4サイクルは逆さまにできない」と言いましたが、マキタはこの常識を覆しました。 MM4エンジンは、クランクケース内のピストン上下運動による圧力変動(脈動)を利用してオイルをポンピングします。そして、オイルを微細なミスト(霧)状にして、バイパス管を通してエンジン内部の各所へ圧送・循環させるのです。
これにより、オイルパンにたっぷりの油が溜まっていなくても潤滑が可能になり、360度どのような角度で保持しても焼き付きを起こさないという驚異的な性能を実現しています。まさに、日本の技術力の結晶です。
オイル交換時期と正しい量
MM4エンジンを長持ちさせるための最大のポイント、それは「オイル量の厳密な管理」です。ここが最も重要です。
一般的な自動車のエンジンオイルは数リットル入りますが、MM4エンジンは軽量化のためにオイルタンクが極限まで小さく設計されています。そのため、わずかな量の過不足がエンジンの調子を劇的に狂わせます。
| 機種カテゴリー | 代表モデル | 規定オイル量 (目安) |
|---|---|---|
| 25.4mLクラス | ポールソー (EY2650H25H) 刈払機 (MEM2650Uなど) | 約 80 mL (0.08リットル) |
| 33.5mLクラス | 背負い式刈払機など | 約 100 mL (0.1リットル) |
| 75.6mLクラス | パワーカッター (EK7651H) 背負いブロワー (EB7660TH) | 約 220 mL (0.22リットル) |
交換サイクルの目安:想像以上に早いです
オイル容量が少ないということは、それだけオイルへの負担が大きく、汚れの進行も早いことを意味します。以下のサイクルを「最低ライン」として必ず守ってください。
- 初回交換:
購入から1ヶ月、または稼働10時間後
※新品のエンジンは「慣らし運転」中に微細な金属粉(バリ)が出るため、早めの交換が必須です。 - 2回目以降:
6ヶ月ごと、または稼働50時間ごと
※オイルが黒く汚れていたら、時間に関係なく交換してください。

交換手順のポイント
- 廃油処理:
オイルフィラーキャップを外し、本体を傾けて古いオイルを完全に排出します。
廃油はティッシュや新聞紙に吸わせるか、廃油処理ボックスを使用してください。 - 水平保持:
機体を「完全に水平」な台の上に置きます。
これがずれていると正確な量が測れません。 - 給油:
オイルジョッキ(先の細いもの)を使い、少しずつ注入します。
いきなりドボッと入れないこと。 - レベル確認:
これが間違いやすいポイントです。
マキタのエンジンの場合、「オイルフィラーキャップ(レベルゲージ)をねじ込まずに、ただ差し込んだ状態で」油面を確認します。
ねじ込んで確認すると、実際より多く入っているように見えてしまい、オイル不足の原因になります。(※機種によって異なる場合があるため、必ず説明書を確認してください)
オイル入れすぎによるトラブル
私が修理相談を受ける中で、4サイクルエンジンの不調原因ナンバーワンは、実はオイル不足ではなく「オイルの入れすぎ」です。「良かれと思って多めに入れた」という親切心が、仇となってしまいます。
なぜ「入れすぎ」はダメなのか
MM4エンジンは、クランクケース内の空気の部屋の容積変化を利用してオイルを循環させています。規定量を超えてオイルを入れると、この空気の部屋が狭くなり、内圧が異常に上昇します。行き場を失ったオイルは、「ブリーザー(呼吸口)」からミストとなって噴き出し、キャブレターへと繋がるエアクリーナーボックスへ侵入します。
入れすぎた時の症状と対処法
- 症状1:白煙
マフラーから殺虫剤を撒いたような真っ白な煙がモクモクと出ます。
燃焼室にオイルが入り込んで燃えている証拠です。 - 症状2:出力低下・エンスト
エアクリーナーのエレメント(フィルター)が吹き出したオイルでベトベトになり、空気が吸えなくなります。
人間で言えば、濡れたマスクをして全力疾走するようなもので、酸欠でエンジンが吹け上がりません。 - 症状3:油漏れ
エアクリーナーボックスの隙間から、黒い廃油のような液体が垂れてきます。

対処法:
もし入れすぎてしまったら、面倒でも一度オイルを規定量まで抜き取ってください。そして、オイルで濡れたエアクリーナーエレメントを取り外し、中性洗剤で洗って完全に乾燥させるか(フェルトタイプの場合)、新品に交換してください。これで嘘のように調子が戻るはずです。
推奨粘度10W-30の重要性
使用するオイルの種類について迷う方も多いですが、基本的には自動車用と同じ規格で問題ありません。
- 推奨グレード:
API分類 SF級以上(現在の市販品はSLやSNなど高性能なものばかりなので、安価なものでもクリアしています) - 推奨粘度:
SAE 10W-30
なぜ10W-30なのか?
「10W-30」という数字には意味があります。「10W」は低温時の柔らかさ、「30」は高温時の粘り気を示します。このマルチグレードオイルは、冬の寒い朝の始動時から、真夏の高負荷運転時まで、幅広い温度域で適切な油膜を保つように設計されています。
注意してほしいのは、「単一グレード(SAE 30など)」や「低粘度オイル(0W-20)」を使わないことです。

- SAE 30(シングルグレード):
芝刈り機用などで売られていますが、冬場は水飴のように固くなり、始動直後の潤滑不足を招く恐れがあります。 - 0W-20(ハイブリッド車用など):
最近の車に多いサラサラのオイルです。
空冷エンジンであるチェーンソーや刈払機にとっては油膜が薄すぎ、高温時に焼き付きを起こすリスクがあります。
ホームセンターの農機具コーナーやカー用品店で売られている、一般的な「4サイクルエンジン用 10W-30」という表記のものを選べば間違いありません。
燃料の誤給油を防ぐ対策
最後に、複数の機材を運用する現場で起こりうる「最悪の事故」について、強く注意喚起させてください。それは「燃料の入れ間違い」です。
もしあなたが、2サイクルのチェーンソー(混合燃料を使用)と、4サイクルのポールソー(レギュラーガソリンを使用)を同時に現場へ持ち込んだ場合、燃料携行缶を取り違えるリスクが常にあります。疲れている夕方の作業終わりなどは特に危険です。
誤給油の結末シミュレーション
- 4サイクル機に「混合燃料」を入れた場合:
すぐには壊れません。エンジンもかかります。
しかし、燃料に含まれるオイル分が燃え残り、燃焼室内や点火プラグ、バルブ周りに大量のカーボン(スス)として堆積します。やがてバルブが完全に閉じなくなり、圧縮漏れを起こして始動不能になります。
修理にはエンジンの分解清掃が必要で、手間と費用がかかります。 - 2サイクル機に「生ガソリン(レギュラー)」を入れた場合:
これは致命的です。絶対にやってはいけません。
2サイクルエンジンは燃料に混ざったオイルで潤滑しています。
生ガソリンを入れるということは、潤滑油なしで高速回転させることと同じです。
エンジン始動後、異音と共に回転が上がり、数分もしないうちに「キーッ!」という金属音と共にピストンがシリンダーに溶着(焼き付き)し、ロックして止まります。
こうなると、シリンダーとピストンの交換が必要となり、修理費は新品を買うのと変わらない額になります。つまり、「一発廃車」です。
物理的なミス防止策
人間は必ずミスをします。「自分は大丈夫」と思わず、視覚的・物理的に区別できる環境を作ることが、プロの知恵です。
- 携行缶の色を分ける:
混合ガソリン用は「赤」、生ガソリン用は「緑」や「青」の缶にするのが一般的です。 - ノズルにタグを付ける:
給油ノズルの首元に、「混合 25:1」「レギュラー」と大きく書いたプラスチックの札を結束バンドで固定します。 - 保管場所を分ける:
ガレージ内での置き場所を離し、混在させないようにします。

まとめ:4サイクルエンジンオイルとチェーンソーの正解
今回、4サイクル エンジンのチェーンソーを通じて、オイルの代用リスクから専門的なマキタエンジンのメンテナンスまで、幅広く解説してきました。
最後に重要なポイントをもう一度整理してみましょう。
この記事の総まとめ
- 代用は絶対NG:
4サイクルエンジンオイルには「粘着性(タッキネス剤)」がないため、遠心力で飛散し、チェーンオイルとしては機能しません。 - 経済的リスク:
数百円のオイル代を節約するために、数万円のガイドバーやチェーンを破損させるのは、コストパフォーマンスの観点で最悪の選択です。 - 専用品を使おう:
AZなどの汎用メーカー製チェーンオイル(VG100)なら安価で高性能です。
これで十分です。 - マキタMM4の整備:
オイル量は非常にシビアです。「入れすぎ」は不調の最大の原因なので、水平確認と規定量を厳守してください。 - 誤給油対策:
現場での「燃料入れ間違い」は一発廃車のリスクがあります。
携行缶の色分けなどで、物理的にミスを防ぐ対策を講じてください。
機械というものは非常に正直です。私たちが注いだ愛情(正しいオイル選びとメンテナンス)の分だけ、確実な仕事で応えてくれますし、逆に手抜きをすれば、一番大事な場面でそっぽを向きます(故障します)。
どうか、目先の数百円を節約するために大切な相棒を傷つけることなく、正しい知識で長く愛用してあげてください。そして、快適なエンジン音と共に、安全で楽しいDIY・林業ライフを送られることを心から願っています。